レポート

全国「増収増益企業」分析調査(2024年度)

「増収増益企業」は14.2万社 建設業が最多、4社に1社が前年比10%超 ~石川県と沖縄県が躍進、地域経済に明暗~

2025/10/29

SUMMARY

2024年度の増収増益企業は14.2万社で全体の32.2%。業種別では「建設業」が最多で、堅調な公共工事に加え、半導体関連工場の新設や都市部の再開発など、民間の設備投資が業績を押し上げ、4社に1社が前年比10%以上の増収増益となった。また、都道府県別に出現率を見ると、「石川県」が36.9%、「沖縄県」が35.3%で続いた。災害復旧や観光などが好調で、伸び率10%以上も両県で24.9%と最高水準であった。

※増収増益企業とは
企業概要ファイル「COSMOS2」(150万社収録)の中から、2025年9月時点で2024年度(2024年4月期~2025年3月期)の決算数値が判明した約44万社を対象に、年売上高、当期純利益ともに1%以上増加した「増収増益企業」(赤字企業除く)を抽出

※出現率
算出対象の約44万社を母数としたときの増収増益企業数の割合

2024年度の増収増益企業は14.2万社

2024年度は、一部自動車メーカーの認証不正問題や能登半島地震の影響といった特殊要因が重なったが、賃上げや堅調な夏のボーナスに加え定額減税による可処分所得の押上げもあって、個人消費の回復が景気を下支えした。日経平均株価や平均賃上げ率のニュース紙面を“過去最高”の文字がにぎわせたことは記憶に新しい。一方で、景気の下押し要因として、原油・素材価格の高騰、人手不足、物価上昇・円安・金利上昇などのキーワードが強く意識された年でもあった。

帝国データバンクでは、日本経済の正常化へ向けたポストコロナ時代の歩みをひもとくため、2024年度の「増収増益企業」の分析調査を行った。

2024年度の増収増益企業は、分析対象の約44万社(※2025年9月時点)のうち32.2%にあたる14万2,817社であった。うち、売上・利益ともに10%以上増加している企業(以下、伸び率10%以上企業)は9万1,026社で、全体の20.5%となった。対して減収減益企業は11万6,251社で全体の26.2%となった。増収増益企業が2.6万社(6.0pt)減収減益企業を上回った。

増収増益企業を売上規模別にみると、企業数では「1~5億円未満」が最も多く5万4,930社であった。以下、「1億円未満」が3万4,859社、「10~50億円未満」が2万3,779社、「5~10億円未満」が1万8,306社の順となった。出現率では「1,000億円以上」が48.6%でトップ、「100~1,000億円未満」が43.7%、「50~100億円未満」が39.3%と、売上規模が大きいほど増収増益企業の出現率が高い傾向にあることがわかった。一方で、伸び率10%以上企業の出現率は「1~5億円未満」が最も高い22.6%となった。5億円以上の売上では、レンジ別での顕著な差異は見られず18%前後であった。規模が大きくなるほど、成長には多額の売上・利益増が必要となり、市場飽和や競争激化により達成が難しくなる傾向がある。そのなかで、10%以上の増収増益を達成している企業は、M&Aや新市場進出など環境変化に柔軟に対応し、成長へつなげていると考えられる。

売上規模別 増収増益企業数・出現率

「建設業」が増収増益企業をけん引

増収増益企業を業種大分類別でみると、「建設業」が5万8,005社と最も多く、伸び率10%以上企業は4万4,859社であった。災害復旧工事や半導体工場などの大規模開発、大都市圏での再開発などの好材料が業績を押し上げた。次点は「サービス業」で2万7,959社(伸び率10%以上企業1万5,673社)、「卸売業」が1万7,955社(伸び率10%以上企業9,550社)となった。

また、業種内の出現率でみると、「運輸・通信業」が37.4%でトップ、「建設業」が33.5%と続いた。伸び率10%以上企業の出現率は「建設業」が25.9%と最も高く、次いで「不動産業」などが20.4%であった。

業種大分類別 増収増益企業数・出現率


伸び率10%以上の出現率の上位5業種を業種51分類(※TDB景気動向調査の業種区分に準ずる)別にみると、1位は「設備工事業」で28.3%、2位は「職別工事業」、「総合工事業」がともに24.9%で続いた。建設関連業種が上位を占めた背景には、民間の設備投資の活発化や土木工事の堅調な推移がある。また、同率2位にはインバウンド需要やポストコロナでの外出機会の増加を背景に「旅館、その他宿泊所」も24.9%で並んだ。5位には設計事務所をはじめとした土木建築サービス業や経営コンサルタントなどの「専門サービス業」が23.8%で続いた。一方で、下位5業種を見ると、最下位は「医療業」7.6%、次いで「パルプ・紙・紙加工品製造業」8.2%、「ゴム製品製造業」9.8%、「出版・印刷・同関連産業」10.0%、「教育」10.5%と続いた。

業種51分類別 伸び率10%以上企業の出現率 上位/下位5業種


増収増益企業の出現率トップは「石川県」の36.9%

都道府県別にみると、増収増益企業全体の出現率は「石川県」が36.9%(1,742社)と最も高く、「沖縄県」が35.3%(1,700社)、「東京都」が34.5%(2万4,535社)と続いた。伸び率10%以上企業では、「石川県」「沖縄県」が24.9%、「神奈川県」が23.1%であった。「石川県」は増収増益企業1,742社のうち約半数の848社が建設業であり、道路・管・設備工事など幅広い分野で災害復旧関連の特需があったことが要因のひとつとして挙げられる。また、2024年問題でトラック運転手の残業時間規制が強化されるなか、東西の輸送の中継基地として化粧・日用品・一般医薬品を扱う大手企業に高く評価され物流関連も活性化した。「沖縄県」はレジャーをはじめとした観光業が好調であることに加え、建設業では米軍基地や公共工事のほか、大規模テーマパークや宿泊施設の新設や改装需要もあり盛り上がりをみせている。

都道府県別 増収増益企業数・出現率

まとめ

2024年度は、日経平均株価や平均賃上げ率が過去最高を記録するなど、明るい兆しが見られた一方で、原油・素材価格の高騰、人手不足、物価上昇、円安、金利上昇といった課題が浮上し、多くの中小企業が持続的な成長を模索する局面に立たされた年でもあった。

本調査の結果、2024年度の増収増益企業は14万2,817社、出現率は32.2%であった。業種別では、建設業が全体をけん引した。公共工事は底堅く、半導体工場の新設や都市部の再開発事業のほか省エネ投資、さらにはデータセンターの新設など、民間の設備投資が需要を支えた。また、宿泊業など原材料費や人件費が上昇しているなか、価格転嫁やインバウンド需要の取り込みに対応できた業種が業績を伸ばしている。不振業種に目を向けると、価格転嫁が難しい医療業や需要減の紙・出版関係の業種が低成長にとどまるなど、業種間での成長格差が浮き彫りとなった。

地域別の増収増益企業の出現率トップは「石川県」の36.9%で、災害復旧関連の特需や東西の輸送の中継基地として評価され物流関連業界も好調だった。次いで「沖縄県」35.3%、「東京都」34.5%と続いた。一方で、東北・山陰エリアの不調が際立つなど地域ごとの経済特性が出現率に影響を与えたことがうかがえる結果となった。

増収増益の要因は様々だが、各府省庁における中堅及び中小企業が活用可能な施策をテコに業績を維持向上している企業も一定数存在する。特に、国は2024年を「中堅企業元年」と位置づけ、国内外での事業・投資の拡大が見込める企業の支援を本格化している。特に中小企業庁の取り組む「100億宣言」企業は5億円を上限とする「中小企業成長加速化補助金」と相まって注目度が高く、地域経済の活性化や日本経済の競争力強化に資する企業として今後のさらなる成長が期待されている。なお、「100億宣言」企業1,918社(10月27日時点)のうち、増収増益が判明した企業は610社、10%以上増収企業は341社であった。

2025年度は、トランプ関税や地域紛争、円安・金利上昇・人手不足の深刻化のほか、物価上昇に伴う消費行動の変化が、企業業績に与える影響を注視していく必要があろう。2025年度の企業業績は、官民を挙げた取り組みによる新たな中堅企業の育成に加え、AI・DXのデジタル化を軸とした競争力強化や民需の底上げが増収増益を実現する鍵となろう。

全国「増収増益企業」分析調査(2024年度)

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