レポート

最低賃金に関する企業の実態調査(2025年9月)

採用時の最低時給 平均1,205円、前年増も賃上げ余力は低下 ~政府目標の2029年までに最低時給1,500円達成可能は3割に届かず~

SUMMARY

従業員採用時の最低時給は平均1,205円となり、厚生労働省が発表した2025年の最低賃金1,121円を84円上回った。しかし、最低賃金の引き上げによる消費効果はおよそ半数の49.4%が「ない」と回答している。増えない可処分所得や年金など将来不安により、最低賃金改定による消費回復を悲観的にみている企業は多く、消費活性化への効果は慎重に検証する必要があろう。

※株式会社帝国データバンクは、全国2万5,546社を対象にアンケート調査を実施した。

※「最低時給」は、従業員を採用するときの最も低い時給の平均値で小数点第1位を四捨五入している。なお、日給・週給・月給の場合は、時給に換算している

 調査期間:2025年9月16日~9月30日(インターネット調査)
 調査対象:全国2万5,546社、有効回答企業数は1万554社(回答率41.3%)

従業員採用時の最低時給は平均1,205円 賃金の引き上げ継続も、企業の賃上げ余力は低下

正社員、非正規社員を問わず、従業員を採用するときの最も低い時給[1](以下、最低時給)を尋ねたところ、全体平均は1,205円となり、前回調査(2024年9月)から38円上昇し、厚生労働省が発表した2025年度の最低賃金(以下、最低賃金)の全国加重平均1,121円を84円上回った。

また、最低時給と最低賃金の差額に注目すると、2025年は84円であり、前回調査の112円よりも28円低下した。企業は、最低賃金の引き上げにあわせて賃上げを継続して行っているものの、「これ以上賃金を上げると、経営が厳しくなる」(不動産、愛知県)といった声が複数聞かれ、徐々に賃上げ余力が低下している様子がうかがえる。

業界別(『その他』を除く)では、『不動産』が1,284円でトップとなった。以下、『サービス』(1,260円)など5業界で全体平均を上回った。特に、『サービス』を詳細にみると、「情報サービス」(1,392円)や経営コンサルティングなどを含む「専門サービス」(1,380円)、「広告関連」(1,335円)で1,300円を超え、『サービス』全体を引き上げた。他方、「旅館・ホテル」(1,080円)や「飲食店」(1,105円)は2025年の最低賃金を下回り、業界間だけでなく、同じ業界内でも差が大きな格差がみられた。


[1] 従業員を採用するときの最も低い時給の平均値で、小数点第1位を四捨五入している。なお、日給・週給・月給の場合は、時給に換算している

2029年までに最低時給1,500円以上「達成可能」は27.6%

貴社では、2029年までに最低時給を1,500円以上に引き上げることが可能かを尋ねたところ、「既に1,500円以上」と回答した企業は6.6%、「可能だと思う」は21.0%、「どちらとも言えない」は26.7%、「可能だと思わない」は38.7%、「分からない」は9.6%だった。

業界別にみると、「既に1,500円以上」と「可能だと思う」の合計が最も高いのは『建設』(35.4%)で、『不動産』(33.9%)、『サービス』(33.0%)が3割台で続いた。

一方で、『小売』は16.5%で唯一2割を下回り、「可能だと思わない」(52.6%)はトップで半数を上回る唯一の業界となった。

また、10業界中、6業界で「既に1,500円以上」と「可能だと思う」の合計を「可能だと思わない」が上回り、政府が掲げる2029年までに最低賃金1,500円以上への引き上げ目標の達成には厳しさが表れている。

都道府県別、「東京都」が平均1,381円でトップ 一方で地域間の格差が顕著に

最低時給を都道府県別で比較すると、最も高かったのは「東京」の平均1,381円だった。続いて、「神奈川」(1,321円)、「大阪」(1,275円)、「千葉」(1,263円)、「埼玉」(1,243円)、「兵庫」(1,220円)、「愛知」(1,216円)の7都府県で1,200円を超え、1,300円以上は上位2県のみとなった。

なお、最低時給と最低賃金の差額は「東京」(+155円)が最大だった。

一方で、最低時給が1,000円を下回る都道府県はなかったものの、「鳥取」(1,047円)、「青森」(1,052円)、「秋田」(1,053円)、「鹿児島」(1,053円)が低水準だった。さらに、最低賃金との差額については「鳥取」(+17円)、「秋田」(+22円)、「青森」(+23円)が下位3県となっている。

都道府県別の最低時給をみると、地域間の格差が顕著となった。加えて、最低賃金との乖離幅は、都市部ほど大きくなる傾向が表れた。

最低賃金引き上げによる消費効果、「ない」とみる企業が約半数 増えない可処分所得や将来不安で消費回復には悲観的

今回の最低賃金の引き上げは、今後の消費回復に効果があるか尋ねたところ、「ある」と回答した企業は12.0%にとどまり、「ない」と回答した企業は49.4%だった。最低賃金の引き上げが消費の回復に結び付くか懐疑的に考えている企業がおよそ半数を占める結果となった。

業界別に「ある」の割合をみると、『農・林・水産』が17.9%でトップとなり、『不動産』(17.2%)、『建設』(13.6%)、『サービス』(12.6%)が全体を上回った。一方で、『小売』は8.4%と低く、「ない」の割合は10業界中で最も高い56.8%であり、消費回復に対してより悲観的に捉えている結果となった。

企業からは、「最低賃金が上がっても、社会保険料や税金を減らして可処分所得を増やさなければ消費に回らない」(各種商品小売、大阪府)や「賃金が上がった分、貯蓄や投資といった未来への備えに回り、消費に回るとは思えない」(繊維・繊維製品・服飾品小売、滋賀県)など、可処分所得が増えないことや、将来への不安が消費を抑制しているといった意見が目立った。

業界別にみると、「既に1,500円以上」と「可能だと思う」の合計が最も高いのは『建設』(35.4%)で、『不動産』(33.9%)、『サービス』(33.0%)が3割台で続いた。

一方で、『小売』は16.5%で唯一2割を下回り、「可能だと思わない」(52.6%)はトップで半数を上回る唯一の業界となった。

また、10業界中、6業界で「既に1,500円以上」と「可能だと思う」の合計を「可能だと思わない」が上回り、政府が掲げる2029年までに最低賃金1,500円以上への引き上げ目標の達成には厳しさが表れている。

まとめ

本調査の結果、採用時の最低時給の全体平均は1,205円となり、最低賃金(厚労省)を84円上回った。2025年の最低賃金の引き上げ額は、比較可能な2002年以降で最大となるなか、改定前の段階で最低賃金(厚労省)を84円上回っており、最低賃金引き上げに対する各企業の努力がうかがえる。

一方で、人件費の上昇や物価高騰などコスト負担の高まりが続き、これ以上の引き上げは難しいという声が多数ある。さらに近年、最低賃金の改定幅が大きくなっていることにより、企業に賃上げ疲れの様子が表れている。政府目標としている2029年までに最低時給1,500円以上は、政府の最低賃金の引き上げペースと企業経営の面から非常に厳しいといえる。

また、最低賃金の引き上げによる消費効果はおよそ半数の49.4%が「ない」と回答している。最低賃金の引き上げを行うだけでは、社会保障や税金により手取りの収入が思っていたよりも増加せず、消費回復につながりづらい。最低賃金改定による消費回復を悲観的にみている企業は多く、消費活性化への効果は慎重に検証する必要があろう。

20251024_最低賃金に関する企業の実態調査(2025年9月)

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