レポートトランプ関税が日本経済に与える影響(2025年8月)

トランプ関税、2025年度の実質GDP成長率を0.4ポイント下押し ~ 輸出は1.3ポイント下押し、倒産件数が約260件上乗せの可能性も ~

SUMMARY

トランプ関税に対する日米交渉は7月23日合意に至ったものの、大統領令の記述内容の相違などにより、25%の関税率が適用されたままとなっている。今後、合意内容に沿った形で修正されると、2025年度の日本の 実質GDP成長率はトランプ関税がなかった場合と比較して0.4ポイント低下すると予測する。日本全体の企業の経常利益の伸び率を1.7ポイント下押しするとみられる。また倒産件数を2.6ポイント(約260件)上振れさせると見込まれる。

※ 本レポートの予測結果は、相互関税が2025年度の日本経済に与える影響について、TDBマクロ経済予測モデルを用いて試算している
※ TDBマクロ経済予測モデルは、経営判断に必要となる将来の経済動向について、より実体に近いものとして把握することを目的としている。中小企業を中心とした企業の景況感を捉えている「TDB景気動向調査」の結果を予測に組み込むなど、人びとが景気に対して抱いている実感をより反映するマクロ経済予測モデルとなっている

はじめに

2025年4月3日(日本時間)、米国のトランプ大統領は「相互関税」を公表した。その後、日本やEU(欧州連合)など米国の貿易赤字額が大きい57カ国・地域に対しては、ベースライン関税10%と上乗せ関税率を合わせた相互関税率が日本24%、EU20%、中国34%などとなっていた。しかし、上乗せ部分について日本を含む一部の国・地域に90日間の一時停止を許可すると発表、さらに8月1日まで延長されていた。

その間、日本と米国の間で交渉が続けられた結果、7月23日に相互関税率および分野別の自動車・同部品への関税率を15%とすること、米国の中核産業の再建と拡大のため、また自国の市場を米国からの輸出品に対してさらに開放するために、米国に5,500億ドルの投資を行うことなどで合意した。日米交渉で合意した相互関税率は8月7日より発動される予定だったが、自動車・同部品への実施時期は未確定のままであった。

そうしたなか、8月1日に署名された大統領令に、日米合意の内容が反映されず一律15%の関税が上乗せされるミスが見つかった。米国が大統領令を適時修正する措置をとること、また同じタイミングで自動車などの関税を下げるための大統領令を発出することも確認されたが、修正時期は未定であり、現在(8月20日時点)も関税率がベースライン関税10%に15%上乗せされる状況が続いている(ただし、7日以降に徴収された合意内容を上回る部分については、修正後に遡って払い戻される予定)。

また分野別では、鉄鋼やアルミニウムに25%、銅に50%の関税率が課されている。8月6日時点で、米国の実効関税率は、これらの関税発動により2024年時点の2.5%から18.6%に上昇するとの試算もあり[1]、1933年以来92年ぶりの高い水準となる。

そこで、帝国データバンクは、米国によるトランプ関税の適用が2025年度の日本経済に与える影響についてTDBマクロ経済予測モデルを用いて試算した。同様の試算は4月に続き2回目[2]。

図1 トランプ関税による2025年度日本経済への影響シミュレーション結果
図1 トランプ関税による2025年度日本経済への影響シミュレーション結果

トランプ関税で2025年度実質GDP成長率0.4ポイント低下

トランプ関税(相互関税および分野別関税)が2025年度の日本経済に与える影響をTDBマクロ経済予測モデルで求めた結果は上図1の通りである[3]。

2025年度の実質GDP成長率は、トランプ関税の発動によりトランプ関税がなかった場合と比べて0.4ポイント低下すると予測した。

なかでも輸出の伸び率は1.3ポイント低下すると見込まれる。特に、自動車・同部分品は、2024年に日本の対米輸出額21兆2,948億円のうち7兆2,575億円、構成比34.1%を占めている。9月中旬以降に関税率が15%へと引き下げられるとみられるが、従来の関税率2.5%から大幅に上昇することになり、裾野が広い自動車関連への高水準な関税は輸出全体を押し下げる最大の要因となる。

輸出の伸び率低下は企業の設備投資も下押しする。民間企業設備投資の伸び率は0.2ポイント低下する見通しである。世界経済の先行き悪化に加え、米国経済の後退を受けて、企業は設備投資の判断を慎重にせざるを得ない。大手企業では米国内での生産拡大を進めていくとみられるが、日本国内での設備投資を抑制する要因の一つとなりそうだ。

輸出や設備投資に対する影響は民間法人企業所得(会計上の経常利益に相当)にも影響し、経常利益の伸び率は1.7ポイント低下すると予測され、トランプ関税の発動によって5年ぶりに減少へと転じる可能性がある。

こうした状況は労働者の所得にマイナスへ働くことから、個人消費を下押しする要因ともなる。その結果、民間最終消費支出の伸び率は0.2ポイント低下する見込みである。国内で実質賃金の減少傾向が続いているなかで、GDPの5割超を占める個人消費の伸び悩みは、力強さに欠ける日本経済にとってマイナス材料となろう。

全国企業倒産件数は2024年度に1万70件と11年ぶりに1万件超となった。このような状況のなかで2025年度の倒産件数を2.6ポイント(264件)上振れさせると見込まれる。

おわりに

トランプ関税に関する日米交渉は一応の合意に至り、将来に対する不確実性は幾分後退した。しかし、実施時期をはじめ依然として未定なことも多く、企業にとっては判断の難しい状況が続いている。とりわけ、分野別関税における半導体や医薬品は今後決定される見込みであり、引き続き注視すべきであろう。

こうした状況は、日本の実質GDP成長率を下押しするとともに、企業の倒産件数の上振れが予測され、経済に与える影響は広範囲に及ぶと考えられる。特に中小企業にとって、直接的に海外取引を行っていなくてもさまざまな経路を通じて影響を受けることになる。政府はこうした影響を緩和する対応策を効果的に実行する必要があり、一方で企業は自らできる範囲で情報を集め機動的に対応していくことが重要となる。


[1] 米イェール大学 予算研究所、「State of U.S. Tariffs: August 7, 2025」
https://budgetlab.yale.edu/research/state-us-tariffs-august-7-2025

[2] 帝国データバンク、「トランプ関税が日本経済に与える影響」(2025年4月16日発表)https://www.tdb.co.jp/report/economic/20250416-trumptariffs/

[3] 【前提条件】相互関税の関税率は、2025年4月~7月10%、8月~9月中旬25%、9月中旬~2026年3月15%、自動車・同部品の関税率は、2025年4月~9月中旬25%、9月中旬~2026年3月15%と想定している。

20250820_トランプ関税が日本経済に与える影響(2025年8月)

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