レポート「従業員退職型」の倒産動向(2025年1-7月)

従業員「退職」で倒産、前年比1.6倍に急増 過去最多を大幅更新へ

株式会社帝国データバンクは、人手不足による倒産のうち「従業員の退職を要因とした人手不足(従業員退職型)」の倒産発生状況について調査・分析を行った。なお、2024年以前の数値は最新の情報を基に再集計を実施している。

SUMMARY

2025年1-7月に判明した人手不足倒産のうち、「従業員退職型」は74件で、前年同期(46件)から約6割の増加となった。2025年通年では年間100件に達するとみられる。

IT産業や映像制作などの「サービス業」、「建設業」などの倒産が多かった。また、2025年は業績悪化による賃金引き下げが原因の倒産も発生した。転職市場で待遇改善を求める動きが広がるなか、賃上げできない中小企業の淘汰が進む可能性がある。

集計期間:2013年1月~2025年7月31日まで

集計対象:負債1000万円以上・法的整理による倒産


従業員の「転退職」で倒産、前年比1.6倍に急増

2025年1-7月に判明した人手不足倒産251件のうち、従業員や経営幹部などの退職が直接・間接的に起因した「従業員退職型」の倒産は、合計で74件判明した。前年同期(46件)から28件・約6割増と急増しており、このペースで推移した場合、集計可能な2013年以降で最多だった2024年(90件)を大幅に上回り、初めて年間100件に到達することが確実な情勢となっている。

2025年7月までに発生した「従業員退職型」倒産を業種別にみると、最も多いのが「サービス業」(19件)で全体の25.7%を占めたほか、サービス業としては2013年以降、1-7月ベースで最多を更新した。サービス業では、人手不足の状態が慢性化しているソフトウェア開発などIT産業のほか、特に映像制作などの業界が目立った。

システム開発を手がけていたピーシーネット(2025年1月、破産)は、小規模な運営のなかでエンジニアの引き抜きや人材流出、それに伴う外注費の増加などに直面したことで収益性が低下し、最終的に事業継続を断念した。次いで多いのが「建設業」(17件)で、設計者や施工監理者など、業務遂行に不可欠な資格を持つ現場作業員のほか、営業担当役員など幹部社員が相次いで退職し、事業運営が困難になった企業などが目立った。建売住宅の販売を手がけていたクレセントホーム(佐賀、2025年5月破産)は、新代表の就任以降に幹部社員が相次ぎ退職し、営業力や施工力が低下したことが痛手となった。「製造業」のほか「卸売業」、トラック輸送を中心とした「運輸・通信業」でも、2025年1-7月の累計でいずれも過去最多となるなど、従業員の退職が引き金となって事業に行き詰まるケースが幅広い業種に広がっている。

また、不動産仲介のウィルプライズ(東京、2025年4月破産)では、業績が悪化したことで給与引き下げを実施した結果、従業員の退職が続き事業継続が困難となるなど、満足な給与水準を提供できないことが要因となった「賃上げ難倒産」も発生した。

賃上げによって良い人材を高給で確保する動きが広がるなか、「待遇改善をしないことによる人材流出リスク」が中小企業を中心に高まっている。ただ、賃上げしたくても業績悪化などを理由に賃上げができない企業も多く、従業員に対し十分な報酬を支払う余力のない中小零細企業の淘汰が、「従業員退職型」倒産として今後表面化する可能性がある。

20250804_「従業員退職型」の倒産動向(2025年1-7月)

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