レポートトランプ関税に対する企業の意識調査

トランプ関税、 企業への中長期的な影響 「マイナス」が44.0% 不透明感強く、「分からない」も4割近くに 自動車関連は6割を超える企業でマイナス見込む

2025/07/10
海外  政策・法制度  景気動向  アンケート

SUMMARY

トランプ関税に対し、短期的には企業の40.7%が「マイナス影響」、33.2%が「影響なし」と見込み、中長期的には44.0%が「マイナス影響」、38.5%が「分からない」とみている。特に自動車関連では6割の企業がマイナスを見込む。また、具体的な懸念としてコスト上昇や売上減少の声があり、その対策として価格転嫁や競争力強化が挙げられた。政府には、国内産業への過度な負担を回避するため、米国との粘り強い交渉と企業支援策が求められる。

※株式会社帝国データバンクは、全国2万6,237社を対象に、「トランプ関税」に対するアンケート調査を実施した。
 なお、本レポートは7月3日に発表した「トランプ関税に対する企業の意識調査(速報版)」の詳細版である
 調査期間:2025年6月17日~6月30日(インターネット調査)
 調査対象:全国2万6,237社、有効回答企業数は1万435社(回答率39.8%)

トランプ関税、中長期的にマイナスを見込む企業は4割超

ドナルド・トランプ氏が2025年1月に米国大統領に再び就任して以来、様々な関税政策を世界へ向けて実行している。現在、関税率が一律10%引き上げられているなか、7月7日にトランプ大統領は自身のSNSで米国に輸入される日本製品に対して8月1日から25%の関税を課すと表明した。そのほか、鉄鋼・アルミニウム製品や自動車・同部品への追加関税などが発動されており、日本企業への影響が徐々に表れつつある。

そこで、トランプ関税が自社の事業活動に与える短期的な影響(今後1年以内)について尋ねたところ、「マイナス影響がある」とする企業が40.7%、「影響はない」が33.2%だった。他方、「プラス影響がある」とする企業はわずか0.9%にとどまった。また、4社に1社は「分からない」(25.1%)と回答した。

また、「マイナス影響がある」を業界別にみると、「米国への進出を計画していたが、トランプ氏の発言で取り止めた」(機械製造、神奈川県)といった声があがる『製造』が48.7%で最も高く、『運輸・倉庫』(48.6%)、『卸売』(45.7%)が上位に並んだ。とりわけ、「輸送用機械・器具製造」は68.1%と7割近くにのぼり、多くの自動車関連の企業で警戒感が高まっている。

さらに、中長期的な影響(今後5年程度)についても尋ねたところ、「マイナス影響がある」は44.0%と短期的なマイナス影響の割合を上回った。また、「分からない」が38.5%となった。一方で、「影響はない」とする企業は16.5%にとどまり、中長期的には、先行きの不透明感から「分からない」や、より具体的に「マイナス影響がある」といった見方に転じている企業が増加したことがうかがえる。

トランプ関税に対する影響

短期的な影響(今後1年以内)

中長期的な影響(今後5年程度)

具体的な影響、
短期・中長期ともに「原材料コスト」の上昇がトップ

トランプ関税に対する具体的な影響について尋ねたところ、短期的な影響では「原材料コストの上昇」が65.3%と突出して高かった。次いで、「売り上げの減少」(48.0%)と「物流コストの上昇」(43.7%)が4割台で並び、「輸入品コストの上昇」(39.5%)、「為替変動」(29.2%)が続いた。

多くの企業でコスト上昇の影響を危惧しており、複雑に絡み合うグローバルなサプライチェーンを通じて調達する原材料や部品のコストが上昇する可能性に対して、極めて強い危機意識が表れた。加えて、日本製品に関税が課された場合、米国市場における販売価格は上昇し、価格競争力の低下から輸出量の減少や市場シェア低下が予想され、売り上げ減少への危機感も強く表れた。

また、中長期的な影響について尋ねたところ、短期的な影響と同様に「原材料コストの上昇」(53.6%)や「売り上げの減少」(39.2%)、「物流コストの上昇」(35.7%)、「輸入品コストの上昇」(33.5%)、「為替変動」(22.1%)が上位に並んだ。

企業からも「関税の影響を受けた国内顧客(対米取引の減少)の収入減による売り上げ低下が懸念材料である」(機械・器具卸売、東京都)や、「直接の影響はないと思うが、物価高になり消費が落ちることによる間接的な影響が考えられる」(各種商品小売、埼玉県)との声があげられた。トランプ関税に対する短期的および中長期的な影響について、ともに同様の傾向を示しており、企業は一時的な影響ではなく、構造的、継続的な課題として認識していると言え、長期に影響が及ぶことを示唆している。

具体的な影響(上段:短期、下段:中長期)

トランプ関税への対策、
価格転嫁や競争力強化、コスト削減が上位に

トランプ関税に対する対策(今後の可能性も含む)の有無について尋ねたところ、「取り組みあり」とする企業は38.9%と4割近くになった。他方、「特に取り組んでいない」は58.8%と約6割にのぼった。

さらに、取り組みがあるとした企業に対して、具体的な対策(今後の可能性も含む)について尋ねたところ、「価格転嫁」が46.8%で最も高かった。次いで、「製品やサービスの付加価値を高めることによる競争力の強化」(22.5%)や「原材料コストの削減」(21.8%)、「新規市場の開拓」(19.4%)、「原材料などの調達先の変更」(18.5%)が2割程度で続いた。

収益確保の観点から価格転嫁や競争力強化、コスト削減が上位に並び、リスク分散と新たな成長機会の模索も重要な対策として取り組む様子がうかがえた。

他方で、米国での事業に関する見直しや現地化の動きは現時点では少数にとどまり、慎重な姿勢が表れた。

具体的な対策(今後の可能性も含む)

具体的な対策の有無

具体的な対策

まとめ

本調査の結果、トランプ関税に対して、短期的には製造業を中心に企業の4割が「マイナス影響がある」と見込んでいる。とりわけ、自動車関連の企業においては7割近くの企業が「マイナス影響がある」と回答し、高い危機感が表れた。

他方、中長期的には44.0%が「マイナス影響がある」とし、38.5%が「分からない」と見込み、先行きが見通せないなか、多くの企業が不安を抱えている結果が浮き彫りとなった。

具体的な影響については、短期的には原材料や物流コスト増大、売り上げの減少などの直接的な圧力が目立ち、中長期的には新たな市場開拓、そしてイノベーションの促進などがあげられた。ただし、原材料コスト、物流コスト、輸入品コストの上昇などを中心に、短期・中長期にかかわらず同様の影響を見込んでおり、一過性の傾向ではなく、継続的な課題とした戦略的対応が求められる。

また、現時点での対策については、価格転嫁で対応しつつも、製品・サービスの競争力強化、調達・販売チャネルの多様化といった構造的な改革も視野に入れていることがうかがえた。しかし、米国事業の抜本的な戦略転換については、様子見の姿勢が強くみられた。

短期および中長期それぞれの状況において、関税の対象品目や関税率など不確実性が高まり、企業は大きな不安を抱えている。7月8日時点で、米国政府から日本政府に対し、米国に輸入される日本製品に対して8月1日から25%の関税を課すことが通知された。4月に発表されていた相互関税から1%上昇し、新たな関税率が設定された格好だ。しかしながら、猶予期間の延長とも捉えられ、交渉の余地が残されており、最終的な着地点が今より改善されることが望まれる。

そうした状況において、企業は単なる価格競争から脱却し、高付加価値製品へのシフトやデジタル技術の積極的な活用などが不可欠となるだろう。日本政府は、国内産業への過度な負担を回避するために引き続き米国政府との交渉を強化・継続するとともに、企業からの声に耳を傾け、具体的な影響評価に基づいた支援策の検討を進めていく必要がある。

20250710_トランプ関税に対する企業の意識調査

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