レポート企業の想定為替レートに関する動向調査(2025年度)
企業の想定為替レートは平均139円64銭、前年より1.24円高く設定 ~実勢レートとの差は縮小するも、企業収益の悪化リスクを注視する必要~
SUMMARY
2025年度の企業の想定為替レートは平均1ドル=139円64銭となり、前年5月時点(140円88銭)から1円24銭の円高水準を想定していた。企業の28.6%が「146~150円」を想定し、最も割合が高い。『金融』『卸売』『小売』『製造』が140円台の一方で、『不動産』は130円28銭。直接輸出企業では「大企業」が「小規模企業」より10円55銭円安の水準を想定。
- 調査期間は2025年5月19日~5月31日。調査対象は全国2万6,389社で、有効回答企業数は1万645社(回答率40.3%)。分析対象は想定為替レートを設定している企業2,333社。なお、想定為替レートに関する調査は2017年以降、毎年実施し、今回で9回目
はじめに
日米の政策金利の差が急拡大した2021年以降、外国為替レート(円・ドル相場)は円安が進行した。日本銀行が2024年7月に政策金利を0%から0.25%、2025年1月に0.25%から0.5%に引き上げ、金利差が縮小したことなどにより、円安進行に歯止めがかかった。円高への転換は、輸入価格の抑制を通じて仕入単価の上昇を抑える一方で、インバウンド需要や輸出にとっては逆風となりかねない。
企業が業績の見通しを作成する際に想定(設定)した名目為替レートと、実際の為替レートに大きな乖離が生じた場合、その乖離が企業の事業遂行や業績に大きな影響を与える。とりわけ、中小企業の想定為替レートは企業の与信にも関係してくる。
そこで、帝国データバンクは、企業の想定(設定)為替レートについて調査を実施した。本調査は、TDB景気動向調査2025年5月調査とともに行った。

想定為替レートは平均1ドル=139円64銭、昨年の140円88銭より1円あまりの円高水準を想定
2025年5月時点での企業の想定為替レートは、平均1ドル=139円64銭(以下、1米ドル当たりの円レートを示す)となった。前年5月の140円88銭から1円24銭の円高水準を想定していた。中央値は145円、最頻値は150円だった(図表1)。
想定為替レートの分布をみると、企業の28.6%が「146~150円」を想定し、最も割合が高かった。次いで、「141~145円」(25.0%)と「136~140円」(21.8%)がいずれも2割台となっており、企業の4社に3社が136円~150円の幅で想定為替レートを設定している。

企業からは、「為替や関税など外的要因によって景気が大きく左右されそう」(食肉卸売、150円)や「為替が円安のままだと、販売価格が高くなり、客足が離れていく」(家庭用電気機械器具卸売、150円)、「旅行者は相変わらず各国から来ているが、若干の円高で購買意欲が下がっている」(生ゴム・ゴム製品卸売、140円)など、為替変動が景気の先行きや自社の売り上げに与える影響を懸念する意見がみられた。一方で、「これから円高を予想しており、仕入価格の低下で利益増を期待」(西洋料理店、135円)といった、円高によるコスト負担の軽減を期待する声も聞かれた。
業界間の想定為替レートの差は最大12.05円、前年の15.88円差から縮小
業界別に想定為替レートをみると、『金融』や『卸売』『小売』『製造』が140円台を想定している一方で、『不動産』は130円28銭とみている。
また、最も円安水準の『金融』と最も円高水準の『不動産』の間には12円5銭の差があった。

「直接輸入」だけを行う企業は「直接輸出」だけの企業より6円50銭の円安水準を想定
輸出・輸入別に想定為替レートをみると、事業として直接または間接的に「輸出」を行っている企業では142円53銭となった。
他方、「輸入」を行っている企業では143円91銭だった。輸入企業は輸出企業より1円38銭程度円安の水準を想定している。特に、「直接輸入のみ」(144円58銭)を行っている企業は、「直接輸出のみ」(138円8銭)を行っている企業よりも6円50銭円安の水準を想定していた。
規模別では、「大企業」は143円1銭、「中小企業」は139円90銭、中小企業のうち「小規模企業」は137円63銭だった。規模が大きくなるほど、円安を想定する傾向がある。また、「直接輸出のみ」を行っている企業では、「大企業」(142円)は「小規模企業」(131円45銭)よりも10円55銭円安の水準を想定している。

まとめ
本調査によると、2025年度の想定為替レートは平均139円64銭であった。昨年5月時点の想定為替レート(140円88銭)と比べると、企業は1円あまりの円高水準を想定していることが分かった。また、「直接輸出のみ」を行う企業と「直接輸入のみ」を行う企業では、収益への影響が逆方向に働くこともあるため、直接輸入企業は直接輸出企業よりも6円50銭の円安水準を想定していた。
2017年以降、実際の外国為替レートと想定レートに大きな差異はなかったが、2021年後半から2024年前半にかけて、実勢レートは想定レートよりも大幅な円安の水準が続いていた(図表4)。2025年4月以降の実勢レートは140円台半ばで推移しており、想定為替レートとの乖離は、11~17円に拡大していた過去3年間と比べても急速に縮小している。一方で、経済のファンダメンタルズを反映する為替レートである購買力平価(PPP)は108円台[1]が続いていることから、中長期的な為替変動は今後も想定される。実勢レートとの乖離による輸出入を通じた企業収益の悪化を招くリスクに、引き続き注視する必要があろう。

[1] 出所:公益財団法人国際通貨研究所「ドル円購買力平価と実勢相場」より、2025年4月の購買力平価(CPIベース)を参照

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