レポート2025年度の業績見通しに関する企業の意識調査
2025年度の業績見通し、 「増収増益」企業の割合は 4社に1社にとどまる 人手不足などの構造的な課題に加え、 トランプ関税やインフレなどのリスクが急増
SUMMARY
2025年度の企業業績見通しは、増収増益を見込む企業の割合が24.6%と2年連続で減少し、減収減益は21.2%と2年連続で増加した。デジタル化を追い風に成長が期待される業種がある一方で、世界経済減速や資源価格の変動、人手不足が逆風となる業種も多い。今後は個人消費回復が業績改善に不可欠であり、可処分所得の増加がカギとなる。企業はコスト見直しや新事業開拓など変化への対応力が重要となるほか、トランプ関税の動向も注視すべき点となる。
※株式会社帝国データバンクは、全国2万6,674社を対象に、「2025年度の業績見通し」に関するアンケート調査を実施した。なお、業績見通しに関する企業の意識調査は、2009年3月以降、毎年実施し今回で17回目
調査期間:2025年3月17日~3月31日(インターネット調査)
調査対象:全国2万6,674社、有効回答企業数は1万716社(回答率40.2%)
2025年度、「増収増益」を見込む企業は24.6%にとどまる
2025年度(2025年4月決算~2026年3月決算)の業績見通し(売上高および経常利益)について尋ねたところ、「増収増益」を見込んでいる企業の割合は24.6%となり、前回調査(2024年度見通し)から1.7ポイント落ち込み、2年連続で減少した。他方、「減収減益」は同0.2ポイント上昇の21.2%と微増ながら2年連続で増加した。また、「前年度並み」が22.1%(同0.8ポイント増)だった。
第1次トランプ政権時の米中貿易摩擦が世界経済の先行きに不透明感をもたらし、企業心理を下押ししていた2019年度の業績見通しをみると、「増収増益」が24.8%、「減収減益」が21.8%、「前年度並み」が22.5%と、今回の見通しとのあいだには類似した傾向がみられる。
年度別の業績見通し

業績見通しを業種別にみると、「増収増益」ではAI技術の進化や官民でのデジタル化投資の加速が期待される「情報サービス」(36.4%)が最も高く、「化学品製造」(34.7%)、「飲食店」(33.6%)、「人材派遣・紹介」(33.3%)、「農・林・水産」(32.5%)などが上位に並んだ。「人材派遣・紹介」は、慢性的な人手不足や労働市場の流動化、雇用制度の見直しなどが派遣紹介ニーズを押し上げた。また、「農・林・水産」は、コメをはじめとする農作物の販売価格高騰による収入増などが下支えした。
他方、「減収減益」では、「再生資源卸売」(31.7%)が3割超で最も高く、次いで「専門商品小売」(28.5%)、「鉄鋼・非鉄・鉱業製品卸売」(27.0%)、「機械製造」(25.7%)、「建設」(25.0%)が続いた。とりわけ注目されるのは、「減収減益」の上位に卸売業や製造業が多く並んだ点である。これは、2019年当時と同様に、トランプ政権下で再び表面化しつつある米中対立の激化が、世界経済の減速懸念を高めている影響といえよう。
2025年度の業績見通し「増収増益」「減収減益」割合-業種別-

上振れ材料は「個人消費の回復」、下振れ材料は「人手不足の深刻化」がそれぞれトップに
2025年度の業績見通しを上振れさせる材料を尋ねたところ、「個人消費の回復」が34.7%と3年連続で最高となった(複数回答、以下同)。以下、「所得の増加」(23.8%)、「原油・素材価格の動向」(22.1%)、「人手不足の緩和」(21.6%)が2割超で続いた。とりわけ、消費を喚起する材料が目立ち、それらが今後の業績を左右するカギとなりそうだ。
また、「減税を行い国民の気持ちを明るい方向に向けることが重要」(建材・家具、窯業・土石製品製造、茨城県)というように、「減税」(15.8%)や、財政・金融政策、成長戦略、規制緩和などの「経済政策の拡大」(13.0%)も上位に並んだ。このほか、「インフラ分野への投資拡大」(専門サービス、東京都)といった声も聞かれ、「公共事業の増加」(19.1%)を上振れ材料として捉える企業も一定数あった。
2025年度の業績見通しを下振れさせる材料では、「人手不足の深刻化」(39.0%)が2年連続でトップとなった(複数回答、以下同)。次いで、「物価の上昇(インフレ)」(35.1%)、「原油・素材価格の動向」(33.5%)、「個人消費の一段の低迷」(32.4%)が3割台で続いた。とりわけ、「より一層のインフレ、物価高が続き、日本全体が不況になると思われる」(メンテナンス・警備・検査、広島県)という声もあるように「物価の上昇(インフレ)」は前回調査から10ポイント以上高まった。
また、昨今の世界経済の情勢を鑑みて「米国経済の悪化」(前回13.2%→21.9%)やトランプ関税を含む「保護貿易主義の拡大」(同2.0%→9.5%)も前回から急上昇した。
このほか、5社のうち1社は「賃金相場の上昇」(22.7%)を下振れ材料として危惧していることが分かった。
2025年度業績見通しの「上振れ材料」「下振れ材料」

2025年度の業績見通し、慎重な見方広がる
本調査の結果、「増収増益」を見込む企業の割合は4社に1社にとどまることが分かった。前年度見通しから1.7ポイント落ち込み、2年連続で減少した。他方、「減収減益」を見込む企業の割合は21.2%と、前年度を0.2ポイント上回り、2年連続の増加となった。こうした慎重な見方の広がりは、コロナ禍前の2019年度の業績見通し(増収増益24.8%、減収減益21.8%)と類似した傾向を示しており、2019年当時と同様に、日本経済を取り巻く不確実性の高まりを示唆しているといえよう。
2025年度の企業業績は、情報サービス業や人材派遣・紹介業など、デジタル化や労働市場の構造変化を背景に成長が期待される業種が存在する一方で、世界経済の減速懸念や資源価格の変動、人手不足といった外部環境の逆風を受けやすい業種では厳しい見通しとなっている。
直近の日本経済は、実質賃金の伸び悩みや消費者の節約志向など、力強さに欠ける面がある。世界経済においても、地政学的なリスクの高まりをはじめ、不確実性が依然として高い状況にある。特に、再び保護主義的な政策を掲げるトランプ政権の動向に加え、米中による関税戦争の再燃は、グローバルなサプライチェーンや貿易に大きな影響を与える懸念材料となっている。2019年当時、米中貿易摩擦が世界経済に与えた影響を考慮すると、今回のトランプ関税の動向は企業業績にとって大きなリスク要因といえよう。
このような経済環境下において、企業の業績が上振れ傾向となるためには、国内の個人消費の回復が不可欠であり、可処分所得の増加がカギとなる。しかし、人手不足や物価上昇の圧力は依然として企業経営の重荷となっており、これらの課題への対応が下振れリスクを軽減するうえで重要となる。加えて、各企業は、不確実な外部環境に柔軟に対応するため、コスト構造の見直しや業務プロセスの効率化、人的資本の強化、新たな事業領域の開拓など、中長期的には持続的な成長に向けた戦略を策定する必要もあるだろう。
米中関係をはじめ今後の経済情勢と政策動向を注視し、変化に柔軟に対応できる企業が、厳しい経済環境下でも成長機会を掴むことができるであろう。
<参考>企業からの声
「増収増益」見通し企業からの主な声 | 業種51分類 | 都道府県 |
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業務の構造改革による新たな需要の創出にチャレンジすることで増収増益を見込む | 広告関連 | 北海道 |
若干の設備投資と一部ライン稼働時間延長により増収増益を見通している。属するエリアの中では賃金を上げている方であり、人手不足も起こらないと想定 | 飲食料品・飼料 製造 | 山形県 |
大型の新規開発案件および既存製品の引き合い増があり、上振れを期待 | 専門サービス | 東京都 |
TSMCの進出ほか、国内大手の設備投資に関連した新工場が建設されるなどで、新規の仕事が増加する | メンテナンス・ 警備・検査 | 熊本県 |
主要取引先とは、安定して仕事を確保できており、総じて心配はしていない | 情報サービス | 神奈川県 |
賃上げ効果が浸透し、現在の価格が当たり前ということが消費者の価値観に認識されてきたら上振れすると思う | 建設 | 栃木県 |
「前年度並み」見通し企業からの主な声 | 業種51分類 | 都道府県 |
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企業で努力しても限界がある。国の施策が重要 | その他サービス (環境計量証明) | 山形県 |
税や社会保険が高すぎて昇給による効果が薄く、人が確保できるか心配 | 化学品製造 | 愛知県 |
物価高騰による個人投資減もあり、住宅が一般サラリーマンにとって手が届きにくい値段になってきた。住宅着工件数が着実に落ちているが、マンション・ホテル・物流センターはまだある | 機械・器具卸売 | 大阪府 |
為替の動向で原材料の価格がどうなるかが問題である | 飲食料品・飼料製造 | 山口県 |
日米の政治の先行きが混沌としており、その影響がどこまでどのようにあるかが、今後の焦点のように思う。どうなっていくか、読み切れない | 情報サービス | 東京都 |
売り上げは前年並みだとは思うが、原料値上げと賃金を上げざるを得ない状況で、利益が出るかどうかが心配 | 飲食料品卸売 | 岐阜県 |
「減収減益」見通し企業からの主な声 | 業種51分類 | 都道府県 |
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取引先企業の廃業などによる下振れリスクがある。さらに、職人さんたちの高齢化や後継者不足に拍車がかかりそうである | 建設 | 千葉県 |
自動車など米国への輸出関税は売り上げ低迷の要因となり、急激な賃上げ、利上げは業績にマイナスに働く | 機械製造 | 岩手県 |
米国による関税率の引き上げと、対象国による対抗措置による経済への悪影響 | 機械・器具卸売 | 神奈川県 |
災害、水害、インフラの老朽の改善に向けた公共事業の遅れなどで社会不安の増大 | 鉄鋼・非鉄・鉱業製品卸売 | 東京都 |
昨年来からの賃金の上昇は、収益性の低い医療業界では追従できる範囲を超えており、慢性的人員不足が今後も続くと思われる。職員への負担が増すなかで職員の流動化は大きなマイナス要因 | 医療・福祉・保健 衛生 | 千葉県 |
金利上昇にともない、金融機関から企業への貸付金利上昇による支払利息の増額も大きな懸念要素 | 不動産 | 宮城県 |
若手の人材確保が厳しく、社員の高齢化が進んでいる | 建設 | 福島県 |
人手不足、賃金の上昇、物価高騰、取引先の売上単価の上げ渋り | メンテナンス・ 警備・検査 | 鳥取県 |
ここ数年で見ると、円安となる。輸入価格の上昇については、特に原油、ガス代などの高騰により、光熱費が10~15%上昇、人件費も上昇。販売価格はそれに対応した値上げができておらず業績は厳しい | 飲食料品・飼料 製造 | 福岡県 |

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