レポートM&Aに対する東京都内企業の意識調査

5年以内に「M&Aに関わる可能性がある」企業、3割にとどまる 企業の6割で悪質なM&Aに対する規制強化が必要と認識

2025/01/31
社長・後継者  アンケート

SUMMARY

今後5年以内に「M&Aに関わる可能性がある」企業は32.1%となり、前回調査(2019年6月調査)に比べて6.9ポイント低下した。一方で、今後5年以内に「M&Aに関わる可能性はない」企業は、規模、業界のいずれの項目でも前回調査を上回り、M&Aに対する警戒感が高まる結果となった。買い手側の不適切なM&Aが問題化し、「規制強化の必要がある」と考える企業が61.3%と6割を超えた。悪質なM&Aに対する規制は急務といえる。

※調査期間は2024年12月18日~2025年1月6日、調査対象は東京都に本社を置く4,268社で、有効回答企業数は2,004社(回答率47.0%)。なお、M&Aに対する調査は、前回2019年6月に実施し、今回で2回目

過去5年(2019~2024年)のM&A実施状況
「M&Aに関わった」企業は14.1% 規模間格差が顕著

過去5年(2019~2024年)における自社のM&Aの実施状況について尋ねたところ、「過去5年の間にM&Aを実施した」(「買い手となった」「売り手となった」「買い手・売り手両者となった」の合計[1],[2] )企業の割合は14.1%と全国平均を3.0ポイント上回った。
他方、「過去5年の間にM&Aを実施していない」企業は81.7%だった。

規模別でみると、「過去5年の間にM&Aを実施した」企業は、『大企業』(30.2%)が『中小企業』(9.2%)を、21.0ポイント上回った。特に、「M&Aの買い手となった」では、『大企業』が22.3%と『中小企業』(5.4%)の4倍にのぼった。
業界別でみると、「過去5年の間にM&Aを実施した」企業は、『金融』が26.9%で唯一2割を上回り、突出していた。一方、『不動産』は10.4%と全国平均を下回った。
従業員数別にみると、「1000人超」(55.1%)では半数を超え、「301~1000人」(35.0%)は3割を超えるなど、従業員数が多い企業で「過去5年の間にM&Aを実施した」割合が高くなる結果となった。


[1] 「買い手(売り手)となった」は、〈M&Aの「買い手」(「売り手」)となった(企業の買収や合併など)〉と〈M&Aの「買い手」(「売り手」)となった(一部事業の譲受や資本提携など)〉のいずれかを回答し、かつ「買い手」と「売り手」が重複していない企業

[2] 「買い手・売り手両者となった」は、「買い手」および「売り手」のいずれにもなったと回答した企業

今後5年以内のM&Aへの関わり方
「M&Aに関わる可能性がある」企業は32.1%にとどまる

近い将来(今後5年以内)における自社のM&Aへの関わり方について尋ねたところ、「M&A に関わる可能性がある」(「買い手となる可能性がある」「売り手となる可能性がある」「買い手・売り手両者の可能性がある」の合計)企業は、32.1%となり、前回調査から6.9ポイント低下した。
他方、「近い将来においてM&A に関わらない」企業は、49.3%と同12.0ポイント増で約半数にのぼり、「分からない」は18.6%(同5.1ポイント減)となった。

買い手(売り手)として相手企業に最も重視すること
買い手、売り手ともに「金額の折り合い」

「買い手となる可能性がある」または「買い手・売り手両者の可能性がある」企業に対して、M&A を進める上で買い手として相手企業にどのようなことを重視するか尋ねたところ、「金額の折り合い」が79.3%(前回比4.5ポイント増)で最も高かった(複数回答、以下同)。次いで、「財務状況」(73.2%、前回比4.8ポイント増)、「事業の成長性」(71.6%、同0.2ポイント増)、「技術やノウハウの活用・発展」(61.9%、同4.5ポイント増)、「経営陣の意向」(58.8%、同7.3ポイント増)が続いた。

また、「売り手となる可能性がある」または「買い手・売り手両者の可能性がある」企業でも、「金額の折り合い」が76.2%(同4.8ポイント増)でトップとなった。前回調査でトップだった雇用維持などの「従業員の処遇」は74.5%(同0.9ポイント減)で2番目になったものの、「金額の折り合い」とともに7割を超えた。

M&Aの相談先
トップは「メインバンク」で5割超
「税理士事務所」、「M&A仲介業者」が続く

M&Aの検討または進める際にどのような団体や企業に相談するのか尋ねたところ、「メインバンク」が44.8%でトップとなった(複数回答、以下同)。 以下、「税理士事務所」(32.5%)や「M&A仲介業者」(25.4%)、「公認会計士事務所」(16.1%)が続いた。また、団体や企業に相談せずに「直接交渉」(15.2%)をすると回答した企業が1割を超えた。
そのほか、企業からは「親会社」「顧問弁護士」などの声が複数あがった。

M&Aに対する規制強化の必要性
61.3%が「規制強化の必要がある」
悪質なM&Aに対する規制が急務

M&Aに対して規制強化を行う必要があるか尋ねたところ、「規制強化の必要がある」と回答した企業は61.3%と6割を超えた。
「どちらともいえない」は15.0%、「規制強化の必要はない」は2.6%、「分からない」が20.1%だった。
企業からは、「M&A仲介会社は仲介して手数料を得たらおしまいで、そのあとは気にかけていないと言わざるを得ない。行政による監督なのか、自主規制なのかは別としても、何らかの対策は必要と感じる」(化学品製造)といったコメントがあり、悪質なM&Aに対する法整備や公的機関の介入や監視が必要といった声が多くあげられた。そのほか、「買い手側の不適切な行為は、DD(デューデリジェンス)だけでは見抜けない。規制強化が必要」(鉄鋼・非鉄・鉱業)や「後継者不足や業界の統合強化に向けての手段としてM&Aが有効な手法であることは認めるが、仲介業者がM&A案件を取り込むために躍起になって営業をかけている行為は目に余る。本来の目的から逸脱して目先の金儲けのために不適切な行為に走る業者も存在すると思われ、規制が必要である」(鉄鋼・非鉄・鉱業製品卸売)など、M&A仲介業者と買い手企業に不信感を募らせる声も複数寄せられた。

まとめ

本調査の結果、「過去5年の間にM&Aを実施した」企業は14.1%、今後5年以内に「M&A に関わる可能性がある」企業は32.1%と前回調査から6.9ポイント低下した。一方、「近い将来(今後5年以内)においてM&A に関わる可能性はない」は49.3%となり、規模、業界のいずれの項目でも前回調査を上回った。企業からは、M&A仲介業者の買い手・売り手に対する公平性や悪質な買い手によるM&Aの動向に疑念を抱く声が多数寄せられた。
「買い手」「売り手」として相手企業に重視する内容を尋ねたところ、「買い手」「売り手」企業ともに「金額の折り合い」を重視していることが分かった。次点で重視する内容は、「買い手」企業は相手企業の財務状況や成長性を重視する一方で、企業は既存の従業員の処遇を重視し、両者の立場によって重視する項目に大きな差異がみられた。
M&Aの検討または進める際の相談先は、「メインバンク」が4割を超え、「税理士事務所」が3割台、「M&A仲介業者」が2割台で続いた。
M&Aに対する規制強化の必要性については、およそ6割が「規制強化の必要がある」と考えている。他方、「規制強化の必要はない」は2.6%にとどまり、「買い手」側の不適切な行為が問題化している背景を踏まえ、悪質なM&Aに対する規制は急務となっている。また、2025年1月24日には、中小企業庁のM&A支援機関登録制度に登録されている仲介業者に対して初の取り消し処分が行われた。
近年、M&Aが中小企業の生産性や経営力向上を目的とした事業承継の手段として重要性が高まっている一方で、当事者である企業からの印象は決して良いものではない。政府は、悪質なM&Aに対する法整備や公的機関の介入・監視を進めるとともに、成功例や失敗例、悪質な事例を積極的に開示し、安心してM&Aを行える環境の構築が重要といえよう。

20250131_東京都M&Aに対する企業の意識調査.pdf

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