レポートM&Aに対する企業の意識調査
5年以内に「M&Aに関わる 可能性がある」企業は約3割にとどまる 企業の約6割で悪質なM&Aに対する規制強化が必要と認識
SUMMARY
今後5年以内に「M&Aに関わる可能性がある」企業は29.2%となり、前回調査(2019年6月調査)に比べて6.7ポイント低下した。一方で、今後5年以内に「M&Aに関わる可能性はない」企業は、規模、業界のいずれの項目でも前回調査を上回り、M&Aに対する警戒感が高まる結果となった。買い手側の不適切なM&Aが問題化し、「規制強化の必要がある」と考える企業が59.4%と約6割となった。悪質なM&Aに対する規制は急務といえる。
※調査期間は2024年12月18日~2025年1月6日、調査対象は全国2万6,721社で、有効回答企業数は1万935社(回答率40.9%)。なお、M&Aに対する調査は、前回2019年6月に実施し、今回で2回目
※本調査における詳細データは、帝国データバンクホームページ(https://www.tdb.co.jp/)のレポートカテゴリにある協力先専用コンテンツに掲載している
過去5年(2019~2024年)のM&A実施状況
「M&Aに関わった」企業は11.1% 規模間格差が顕著
過去5年(2019~2024年)における自社のM&Aの実施状況について尋ねたところ、「過去5年の間にM&Aを実施した」(「買い手となった」「売り手となった」「買い手・売り手両者となった」の合計[1],[2] )企業の割合は11.1%となった。
他方、「過去5年の間にM&Aを実施していない」企業は84.4%だった。
過去5年間のM&A実施状況

規模別でみると、「過去5年の間にM&Aを実施した」企業は、『大企業』(25.5%)が『中小企業』(8.4%)を、17.1ポイント上回った。特に、「M&Aの買い手となった」では、『大企業』が20.4%と『中小企業』(5.3%)の約4倍にのぼった。
業界別でみると、「過去5年の間にM&Aを実施した」企業は、『金融』が17.6%でトップとなる一方、『農・林・水産』は5.1%と全業界のなかで唯一1割を下回った。
従業員数別にみると、従業員数が多い企業ほど「過去5年の間にM&Aを実施した」割合が高くなる結果となった。とりわけ、「1000人超」(50.4%)では半数を超え、「5人以下」(5.3%)と比較すると45.1ポイントも高かった。
過去5年間にM&Aを実施した企業割合

なお、前回調査(2019年6月調査)において、「M&Aの“買い手”となる可能性がある(企業の買収や合併など)」と回答した企業のうち、実際に「M&Aの“買い手”となった(企業の買収や合併など)」企業は20.9%だった。
前回調査で回答のあった企業の過去5年間のM&A実施状況(複数回答)

[1] 「買い手(売り手)となった」は、〈M&Aの「買い手」(「売り手」)となった(企業の買収や合併など)〉と〈M&Aの「買い手」(「売り手」)となった(一部事業の譲受や資本提携など)〉のいずれかを回答し、かつ「買い手」と「売り手」が重複していない企業
[2] 「買い手・売り手両者となった」は、「買い手」および「売り手」のいずれにもなったと回答した企業
今後5年以内のM&Aへの関わり方
「M&Aに関わる可能性がある」企業は29.2%にとどまる
近い将来(今後5年以内)における自社のM&Aへの関わり方について尋ねたところ、「M&A に関わる可能性がある」(「買い手となる可能性がある」「売り手となる可能性がある」「買い手・売り手両者の可能性がある」の合計)企業は、29.2%となり、前回調査から6.7ポイント低下した。
他方、「近い将来においてM&A に関わる可能性はない」企業は、50.5%と同11.5ポイント増で半数にのぼり、「分からない」は20.3%(同4.8ポイント減)となった。
また、「近い将来においてM&A に関わる可能性はない」は、規模、業界のいずれの項目でも前回調査を上回った。
今後5年以内のM&A実施可能性

今後5年以内にM&Aを実施する企業割合

買い手(売り手)として相手企業に最も重視すること
買い手は「金額の折り合い」、売り手は「従業員の処遇」
「買い手となる可能性がある」または「買い手・売り手両者の可能性がある」企業に対して、M&A を進める上で買い手として相手企業にどのようなことを重視するか尋ねたところ、「金額の折り合い」が79.7%(前回比3.2ポイント増)で最も高かった(複数回答、以下同)。次いで、「財務状況」(73.0%、前回比2.7ポイント増)、「事業の成長性」(65.7%、同1.7ポイント減)、「経営陣の意向」(56.0%、同4.8ポイント増)、「技術やノウハウの活用・発展」(54.6%、同0.3ポイント増) が続いた。
「買い手」として重視する項目 推移

他方、「売り手となる可能性がある」または「買い手・売り手両者の可能性がある」企業では、雇用維持などの「従業員の処遇」が78.7%(同0.4ポイント増)でトップとなり、「買い手」の同選択肢を25.4ポイント上回った。
「売り手」として重視する項目 推移

買い手(売り手)として相手企業に重視することは、前回調査とほぼ同様の結果となった。特に、売り手として相手企業に重視することについては、前回調査とランキングに大きな変動はなかった。
M&Aの相談先
トップは「メインバンク」で5割超
「税理士事務所」、「M&A仲介業者」が続く
M&Aの検討または進める際にどのような団体や企業に相談するのか尋ねたところ、「メインバンク」が53.0%でトップとなった(複数回答、以下同)。 以下、「税理士事務所」(35.1%)や「M&A仲介業者」(22.2%)、事業承継・引継ぎ支援センターなどの「公的機関」(15.2%)が続いた。また、団体や企業に相談せずに「直接交渉」(12.0%)をすると回答した企業が1割を超えた。
そのほか、企業からは「親会社」「顧問弁護士」「M&Aに関わる職に就いている友人・親族」などの声が複数あがった。
M&Aの相談先 順位(複数回答)

M&Aに対する規制強化の必要性
59.4%が「規制強化の必要がある」
悪質なM&Aに対する規制が急務
M&Aに対して規制強化を行う必要があるか尋ねたところ、「規制強化の必要がある」と回答した企業は59.4%と約6割となった。
「どちらともいえない」は15.4%、「規制強化の必要はない」は2.1%、「分からない」が22.1%だった。
企業からは、「M&A支援は社会的影響が大きく、公的機関による相談・支援制度もあることを考慮すると、民間企業にも公的側面に基づく相応の責任・義務を負った対応が求められるべき」(飲食料品卸売、北海道)といったコメントがあり、悪質なM&Aに対する法整備や公的機関の介入や監視が必要といった声が多くあげられた。そのほか、「当社は、現在取得できない特殊な権利を所有している。過去に数社から買収の話を持ち掛けられたが、その権利欲しさの乗っ取り的な意味合いが強いもので当社に損な話ばかりだった」(医療・福祉・保健衛生、愛知県)や「M&A仲介業者は、面識のない買い手企業と引き合わせるだけだったため、M&Aのシステムに疑心暗鬼になっている」(建設、宮城県)など、M&A仲介業者と買い手企業に不信感を募らせる声も複数寄せられた。
M&Aに対する規制強化の必要性

規制強化「必要ある」と回答した企業

まとめ
本調査の結果、「過去5年の間にM&Aを実施した」企業は11.1%、今後5年以内に「M&A に関わる可能性がある」企業は29.2%と前回調査から6.7ポイント低下した。一方、「近い将来(今後5年以内)においてM&A に関わる可能性はない」は50.5%となり、規模、業界のいずれの項目でも前回調査を上回った。企業からは、M&A仲介業者の買い手・売り手に対する公平性や悪質な買い手によるM&Aの動向に疑念を抱く声が多数寄せられた。とりわけ、小規模企業など売り手側のM&Aに対する警戒感が高まっている。
「買い手」「売り手」として相手企業に重視する内容を尋ねたところ、「買い手」企業は相手企業の財務状況や成長性を重視する一方で、「売り手」企業は既存の従業員の処遇を重視し、両者の立場によって重視する項目に大きな差異がみられた。しかしながら、「金額の折り合い」は「買い手」「売り手」ともに8割に迫る企業で重要視していた。
M&Aの検討または進める際の相談先は、「メインバンク」が5割を超え、「税理士事務所」が3割台、「M&A仲介業者」が2割台で続いた。
M&Aに対する規制強化の必要性については、およそ6割が「規制強化の必要がある」と考えていた。他方、「規制強化の必要はない」は2.1%にとどまり、昨今「買い手」側の不適切な行為が問題化している背景を踏まえ、悪質なM&Aに対する規制は急務となっている。また、2025年1月24日には、中小企業庁のM&A支援機関登録制度に登録されている仲介業者に対して初の取り消し処分が行われた。
近年、M&Aが中小企業の生産性や経営力向上を目的とした事業承継の手段として重要性が高まっている一方で、当事者である企業からの印象は決して良いものではない。政府は、悪質なM&Aに対する法整備や公的機関の介入・監視を進めるとともに、成功例や失敗例、悪質な事例を積極的に開示し、安心してM&Aを行える環境の構築が重要といえよう。

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