不動産担保や経営者保証などによらない資金調達の新たな選択肢になり得る企業価値担保権。
事業者の将来キャッシュフローや無形資産を含む事業全体を担保として有形資産の乏しいスタートアップや、経営者保証により事業承継や思い切った事業展開を躊躇している事業者などの資金調達を円滑にすることで企業の活性化が期待される。加えて、金融機関によるタイムリーな経営改善、資金繰り支援の動きが加速しそうだ。
企業価値担保権の創設などを骨子とする「事業性融資の推進等に関する法律」は、2024年6月に公布され、成立から2年半以内に施行が予定されている。
そこで、帝国データバンクは、企業価値担保権に対する企業の見解を調査した。本調査は、TDB景気動向調査2024年9月調査とともに行った。
- 調査期間は2024年9月13日~30日、調査対象は全国2万7,093社で、有効回答企業数は1万1,188社(回答率41.3%)
1.企業価値担保権の認知度は3割弱に、「知らない」企業は半数以上に
企業価値担保権の認知状況について尋ねたところ、「制度の内容を含めてよく知っている」が0.5%にとどまったほか、「制度の内容を含めてある程度知っている」(5.3%)、「名前は聞いたことがあるが、制度の内容は知らない」(22.4%)も低水準だった。「自社が金融機関にどのように評価されるのか興味深い」(飲食店、大阪府)などの意見も寄せられたものの、認知度は3割弱にとどまった。
他方、「知らない(名前も聞いたことがない)」とする企業は56.5%と半数にのぼった。企業からは「初めて知ったので、これから調べていきたい」(娯楽サービス、東京都)や「新しい言葉なので勉強を進める」(運輸・倉庫、北海道)というように、知らないながらも前向きに捉える声がいくつも聞かれた。
その一方で、「取引金融機関からは、一切情報を教えていただけない状態である」(建材・家具、窯業・土石製品卸売、山形県)や、「詳しい制度内容などをまとめた資料があれば見たい」(飲食店、長崎県)というように、新しい制度のため情報が容易に得られない点を指摘する声も複数聞かれた。
また、企業価値担保権を「知らない(名前も聞いたことがない)」割合を従業員数別にみると、「1,000人超」の企業では38.2%と3割台だった。しかし、従業員の規模が小さくなるほどその割合は高まっていき、「21~50人」(57.4%)や「6~20人」(58.6%)の企業で全体の割合を上回った。とりわけ「5人以下」の企業では61.1%と6割を超えた。
企業規模の小さい企業からは「聞いたこともないので、どのような制度か分からない」(自動車・同部品小売、福岡県)や「不動産担保や経営者保証等によらない事業性に着目した融資を受けやすくなることは、大変良いことである」(建設、愛知県)など、さまざまな意見が聞かれた。
2.企業価値担保権に対し『活用意向あり』とする企業は26.7%
自社において金融機関から融資を受ける際に、企業価値担保権を活用したいか尋ねたところ、「活用したいと思う」は3.8%、「今後検討したい」は22.9%となり、両者を合計した『活用意向あり』とする企業は26.7%だった。
他方、「活用したいと思わない」も26.7%で、企業の見解は二分している。
企業からは、「資金調達が有利になるのであれば積極的に活用したい」(電気機械製造、山梨県)といった意見や、「100%出資の親会社に依存しているため、当該制度の活用は考えていない」(機械製造、島根県)といった意見が寄せられた。
ただし、「分からない」が46.6%となり、活用意向について、現時点では多くの企業で判断がつかない様子もうかがえた。
また、活用の有無にかかわらず、「面白い制度だが、金融機関が適正な判断ができるとは思えない」(飲食料品卸売、愛知県)や「金融機関の事業性評価の目利き力がほとんどないなかで、どのように設定をするのか注視していきたい」(専門サービス、徳島県)などというように、融資を行う金融機関への審査能力や知見不足を懸念する意見もあがった。
3.活用する理由、6割を超える企業で「自社の事業性に着目した評価に基づき融資を受けたい」
企業価値担保権を活用する意向のある企業に対して、その理由を尋ねたところ、「自社の事業性に着目した評価に基づき融資を受けたいため」とする企業が66.2%と6割を超えトップとなった。
以下、「金融機関とより緊密な関係性を構築したいため(伴走支援を受けるため)」(35.0%)と「事業承継等を見据えて、経営者保証を解除したいため」(31.3%)が3割台で続いた。
4.活用しない理由、企業の4割が自己資本でまかなえている
企業価値担保権を活用したいと思わない企業に対して、その理由を尋ねたところ、「自己資本で必要な資産をまかなえているため」とする企業が40.8%で最も高くなった。
以下、「現在利用している融資手法(不動産担保、経営者保証による融資を含む)で充足しているため」が36.4%、「金融機関と既に緊密な関係性にあるため必要がない」が26.7%で上位に並んだ。
そのほか、「評価基準が不明な状況で、金融機関が利することにしかならないと考えるため」(建設、奈良県)や「自社では、今のところ現状より借入額を増やすことは考えていない」(機械製造、岩手県)といった意見も寄せられた。
まとめ
本調査の結果、現時点では企業価値担保権を「知らない」企業が半数以上を占め、調査を通じて初めて知った企業も少なくなかった。その一方で、しっかりと制度の内容を理解している企業は1%にも満たず、名称を知っている企業を含めても認知度は3割に届かなかった。
また、活用に関しては、活用意向のある企業が4社に1社程度、活用したいと思わない企業も4社に1社程度となり、活用に対する見解は二分していた。また、「分からない」とする企業が半数近くにのぼり、多くの企業で現時点では判断がつかない様子がうかがえた。
活用の意向がない企業においては、自己資本でまかなえている点や、現在の資金調達の手法で十分に間に合っているなどの認識に加え、そもそも制度についての情報が十分に伝わっていないという点も活用しない理由にあげられた。
一方で、活用意向のある企業からは、「自社の事業性の評価を得たいため」や、「金融機関と親密な関係を築くため」、「事業承継を見据え経営者保証を解除するため」といった理由が活用の後押しになっていた。
現状、企業価値担保権は認知度が低く、多くの企業で金融機関の評価方法や具体的な事例がないことでどのようなメリット、デメリットがあるのか判断できないようだ。
理解の進む企業からは前向きな意見も多く聞かれるが、新たな資金調達の手法として認知されていくためには、行政や金融機関などが、まずは制度の仕組みや評価の仕方といった情報をより豊富に分かりやすく周知していくことが重要と言える。
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