ケース別、3つの視点の考え方
前回、与信管理の3つの視点を説明しました。
(1)重点管理:大口取引先、要注意取引先を、重点的に管理。
(2)全体管理:取引先全てを効率的に管理。
(3)継続管理:「(1)重点管理」、「(2)全体管理」ともに、継続的に管理。
どのような場合でも、上記の視点を意識して与信管理する必要があります。最も安全な方法は、全ての取引先について詳細な情報を収集し、くまなく目を光らせることですが、調査費用や審査コストを考えた場合に、取引先数が多くなれば現実的ではなくなってしまいますので、選別して強弱をつけた管理が必要になります。
したがって、取引先数や取引状況などによって、この3つの視点の意識の仕方、組み合わせの仕方は変わります。以下に代表的な例を挙げておきました。
<ケース1:取引先多数>
取引先数が数百社以上であり、大口取引先から小口取引先までさまざまな取引先がある場合

この場合には、1社毎に全てを見ていくには社数が多くなっています。これが全てビッグビジネスであれば、全てを詳細に見ていかなくてはいけません。しかし、大口取引先から小口取引先まで取引規模に差がある場合には、情報収集・評価・管理へ掛ける費用や労力に濃淡を付けることになります。
実際には、大口取引先および要注意取引先を、「(1)重点管理」として企業詳細情報を確認し、更に倒産予測値などの「リスク指標」を加えて判断する必要があります。残りの企業に対しては、「(2)全体管理」として、企業概要情報と「リスク指標」によって、把握していくことが効率的と思われます。
数百社以上の場合には目が届きにくいので、「(1)重点管理」「(2)全体管理」で使用した「リスク指標」を使った「(3)継続管理」を行うことが、効果があります。更に安全性を高めるためには、「重点管理」先に対する変動情報収集を行います。
また、新規案件に関しては詳細に企業情報を確認し、過去の「リスク指標」なども参考にします。
※このケースでは、1社毎の年間取引額の分布、取引先のリスク状態、取引先数などの自社の取引状況により、全体から見た「(1)重点管理」の対象企業の割合は1~5割程度とばらつき、1つの視点のバランスは企業によって全く異なるものとなります。

※要注意取引先は、自社で認識している取引先に、「(2)全体管理」で使う「リスク指標」でリスクが大きい企業を加えて把握します。
<ケース2:取引先多数、小口のみ>
取引先数が数百社以上であり、全てが小口取引先であり、大口の取引が無い場合

この場合には、各取引先との取引規模に違いは無いので、情報収集・評価・管理については明確な基準によって、効率的に一元管理が良いでしょう。ここで、基準として利用するのは、「リスク指標」となります。
実際には「(2)全体管理」として、企業概要情報と「リスク指標」で効率よく判断します。その中で、「リスク指標」が良くない取引先に関して、「(1)重点管理」として企業詳細情報を確認し、必要があれば何らかの対応をすることになります。また、「リスク指標」による「(3)継続管理」も行います。
新規案件に関しては、「リスク指標」を元に自動的に判断し、効率性を優先させます。

※要注意取引先は、自社で認識している取引先に、「(2)全体管理」で使う「リスク指標」でリスクが大きい企業を加えて把握します。
<ケース3:取引先が数十社>
取引先数が数十社であり、取引先がある程度把握できている場合

取引先数が数十社である場合には、1社毎に見ていくことが可能なレベルです。このぐらいの社数になると、1社の倒産でも影響が大きいので、しっかりした個社を対象とした与信管理が必要になってきます。
実際には、取引先のほとんどを「(1)重点管理」として、1社毎に企業詳細情報を確認します。その中で、大口取引先や要注意取引先は「(3)継続管理」として外部や営業マンによる変動情報の収集や、「リスク指標」の変化確認を行い、それ以外に関しては営業担当者による継続的なチェックを行います。
小口取引先に関しては、企業概要の確認と、営業担当者による継続的なチェックを行います。
新規取引先に関しては、企業詳細情報を見た上で判断します。

<ケース4:大口取引先のみ、または取引先が10社程度>
取引先数に関わらず、1社との年間取引額が比較的多額である場合または、取引先数が10社程度である場合

この場合には、1社として倒産しないようにする必要があり、全ての企業が最重要となります。徹底的に情報収集・評価・管理を行うことが必要になります。
具体的には、取引先全てを「(1)重点管理」「(2)全体管理」「(3)継続管理」の対象として、全ての取引先を詳しく調査し、「リスク指標」も使って多角的に評価します。また、外部機関による変動情報を収集することと、営業担当者によるチェックなども行います。
新規案件に関しては詳細に企業情報を確認し、さらに過去の「リスク指標」等も参考にすることが望ましいでしょう。

以上のように、取引先数や取引状況、業種・業界等によりさまざまなケースがあり、与信管理の3つの視点の組み合わせ方も企業毎に違う形になります。基本的なケースを元に、自社に適した与信管理体制を考えることが大切です。

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