第8回では帝国データバンクが保有する企業データを分析する「ストックデータ活用」に関する事例を説明いたしました。今回はもう一つのアプローチである信用調査業務で培った「調査力」を活用した事例についていくつか紹介します。
~事例4:金融機関D社~
<目的>
販売信用(クレジット)取引を展開している大手金融機関であり、クレジット業界における自社の評価や不満、課題に加え、同業者間で見た相対比較、優位性を分析することが目的でした。今回は既存顧客に限らず加盟店候補となるマーケットを対象として、5フォース分析(ミクロ環境分析)における「買い手の競争力」「既存企業同士の競争」とバリューチェーン分析(ミクロ環境)の付加価値を把握するために、アンケート調査を実施しました。
<調査内容>
約147万社の企業概要データベース COSMOS2を活用して競合他社を抽出します。その後、企業間取引データから競合の得意先リストを作成し、アンケート対象を選定しました。
調査項目としては、自社および競合他社に関するサービス提供力や審査スピード、営業担当者などに対する評価をヒアリングすることで、同業者比較を実施し、クレジット業界におけるお客さま視点で見た自社の相対評価(業界内でみた自社の強みや優位性、弱みや課題の把握)を分析できるよう設計しました。

<調査の効果>
過去に何度か自社名でCS調査(顧客満足度調査)を実施していたD社ですが、その内容と調査会社である「帝国データバンク」名で実施した今回の調査結果では一部乖離がありました。これはバイアスが排除されたためです。また、自社名ではない調査だからこそ可能になる競合他社の顧客へのヒアリングと掛け合わせることで、より客観的かつ相対的な分析結果となりました。
加えて、5段階の満足度をヒアリングし、総合満足度につながる個別要因を分析することで、自社内では認知していなかった強みや弱みが顕在化し、今後の経営戦略を策定する際の土台となる情報になりました。
図1:分析イメージ

~事例5:専門商社E社~
<目的>
製造業向けの専門商社であり、すでに「ストックデータ活用」にて自社サービスのターゲットとなりうるマーケットのポテンシャルや成長性、寡占状況などの特徴を客観的に把握していました。今回はさらに踏み込み、マーケットに存在するプレイヤー毎の取引ポテンシャルの把握という、5フォース分析(ミクロ環境分析)における「買い手の競争力」を把握するために、アンケート調査を実施しました。
<調査内容>
取引ポテンシャルについては、「規模」「産業分類」などによって異なるという仮説を持っていましたので、セグメントごとに均一サンプル数になるようアンケート対象を選定しました。
調査項目には、取引ポテンシャルを推計するための項目である、指定商材の購買額に関する部分はもちろんのこと、メーカーからの直接仕入れなのか、商社を介した仕入れなのかなど商流や購買形態も分析できるよう設計しました。

<調査の効果>
それまでは、単に需要が少ないのか、競合他社にシェアを奪われているのかが営業担当の感覚でしか分からなかった部分が、取引ポテンシャルを客観的に評価することで、社内での共通の「ものさし」ができました。また、この取引ポテンシャルと自社の取引金額を掛け合わせることで、「深耕顧客」、「重点顧客」、「効率顧客」、「維持顧客」など顧客を色分けし、経営資源を適切に配分できるようになりました。
図2:分析イメージ

~事例6:不動産業F社~
<目的>
不動産売買を行っており、昨今日本経済全体の問題となっている事業承継を支援すべくCRE(企業不動産)戦略支援事業を拡大していく意向を持っていました。その中で、自社のサービス領域にどれくらいの競合他社がいて、どのような特徴があるのかを把握したいという目的がありました。
まずは事業承継に課題を持つ企業がどれほどいるのか、またそれを支援するプレイヤーはどのような業態なのか、5フォース分析(ミクロ環境)における「買い手の競争力」「既存企業同士の競争」「代替品の脅威」を把握するために、アンケート調査を実施しました。
<調査内容>
信用調査報告書(CCR)の「現況と見通し」ページをテキストマイニングすることで、ピンポイントで「後継者」が不在の企業をリストアップし、アンケート対象を選定しました。
事前に「エリア」や「規模」、「代表者年齢」で簡易分析を行ったうえで調査項目を設計しました。調査回答者には、簡易分析結果のサマリーを提供するなどして、回答率を向上させました。

<調査の効果>
「エリア」や「業種」によって事業承継に課題感を持つ企業数に偏りがあることが客観的に把握されました。また、「規模」によってそれらの悩みを相談する相手が異なることもわかり、マーケットにおける競合他社の立ち位置や自社の戦うべき相手などが明確になりました。
加えて、出口商品である、CRE(企業不動産)戦略支援先の選定のために、社有不動産を保有しているかのセグメントも行ったため素早くフォローに動くことができました。
図3:分析イメージ

第4回でも触れましたが、収集できる情報には、「一次情報」と「二次情報」があります。今回の事例でご説明した「調査力」の活用は、まさに「一次情報」であり、自らの目的に沿って集められているので、鮮度が良く、粒度の細かい情報が集められます。
加えて、「ストックデータ活用」と同じようにセグメンテーションやターゲティング、そして実際に営業する場面でも一貫性を持って活用できる調査(R)のアプローチとなっています。
次回は、セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング(STP)について掲載する予定です。

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