SWOT分析<医療機器市場の事例>
第3回・第5回では「マクロ環境分析」について、第6回では「ミクロ環境分析」についてご説明しました。まずは、振り返りを含めてこれまでの整理を行いたいと思います。
~マクロ環境分析/ミクロ環境分析~
まずは「マクロ環境分析」についてですが、医療機器市場を、政治・経済・社会・技術の4つの観点をまとめると図1のようになりました。第3回で触れた政治の観点では、薬事法の改正により、製造所としての登録の有無など参入障壁を左右する重要なポイントが整理できました。また、第5回で触れた社会の観点からは、老年人口や医療費の増大により、需要の拡大が見込めるなど、医療機器事業に注力したいタナカメタル工業にとって前向きなマクロ環境が確認できました。ちなみに、政治・経済・社会・技術の4つの観点から行う「マクロ環境分析」はそれぞれの頭文字をとって、「PEST分析」と言います。
図1:マクロ環境分析(PEST分析)

次に「ミクロ環境分析」についてですが、第6回から抜粋すると、「5フォース分析」では、5つの競争要因の観点で、医療機器市場を分析しました。ここから、現状進出している部品/部材の供給者としての医療機器事業では、競合他社においても参入障壁が比較的低いため、「新規参入者の脅威」の大きさがうかがえました。
また、「バリューチェーン分析」からは、産学連携の共同開発の取り組みや、仕入先との連携による納期・品質向上などの強みが明らかになりました。一方で、弱みとして、物流面などは差別化ができていない事実も確認できました。
それでは、「マクロ環境分析」・「ミクロ環境分析」について改めて整理できましたので、ここからは「SWOT分析」を行いたいと思います。
~SWOT分析~
「SWOT分析」という言葉自体は、みなさまもどこかで一度は耳にしたことがあるかと思います。
SWOTとは、Strength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)の頭文字をとっており、自社を取り巻く環境による影響と、それに対する自社の現状を分析することが可能になります。実際に、これまでの環境分析を踏まえて、SWOTに落とし込みましょう。
図2:SWOT分析

図2のとおり、「SWOT分析」により、自社と自社を取り巻く環境について、プラス要因、マイナス要因を分類・整理ができました。しかしここから、戦略を立てるためには、これらの要素をクロスで考える必要があります。例えば、機会に自社の強みを投入する「積極的戦略」をとることや、脅威に対して自社の強みで切り抜けていく「差別化戦略」などが考えられます。これら戦略のパターンをまとめたものが図3となっています。
図3:クロスSWOT分析

以上の分析結果を踏まえて、タナカメタル工業はどのような戦略をとるべきでしょうか?
弱みにも挙げたようにまだまだ自動車分野への売上構成は集中しています。過去、リーマンショック後に、自動車分野で大きな打撃を受けたタナカメタル工業にとっては売上構成比の偏りをなくすことは喫緊の課題です。
現状、医療系機器の部品供給もメインである自動車分野と同じように、相手の図面通りに作る仕事が中心となっています。強みである図面通りに作る技術力があるからこそ、これまで仕事を受けられましたが、裏を返せば、引き合いがなくなると医療機器市場での売り上げを伸ばすことが難しくなると言えます。
また、「人生100年時代」と言われる今後、医療ニーズは間違いなく増えるといった前向きな機会がある一方で、現状進出している市場では、参入障壁が低いといった脅威があります。
現状と自社の環境を客観的に分析することで、タナカメタル工業が目指すべき方向性が見えてきます。現状のままでは、拡大することが難しいため、今後、彼らは徐々にステージを変えなければいけません。つまり、自社で医療機器を製品化し、販売できる医療機器製品メーカーになることで新たなポジションを確立することができます。
第6回でも少し触れましたが、医療機器市場は、多品種少量生産という特性があります。そのため、高度な医療機器や大量の汎用品を扱う大手医療機器メーカーが存在する一方で、ニッチな市場に独自の技術で対応する中堅・中小医療機器メーカーが存在しています。また、医療機器メーカーは使用者(医師)とのコミュニケーションも必要となりますが、産学連携の実績のあるタナカメタル工業はそれらのハードルも超えることができるはずです。
これまでの分析結果から、部材メインに取り扱っていたタナカメタル工業は段階を追って製品メーカーとなるために「段階的戦略」としてより製品に近い医療機器部品製造へチャレンジすることを決めました。
以上で医療機器市場に関する、調査(R)ステップは終了となります。
今後は、セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング(STP)のステップについてご説明する予定ですが、次回は、その他の市場を対象として帝国データバンクがご支援したBtoBマーケティングにおける調査(R)の具体例について掲載いたします。

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