ミクロ環境分析<医療機器市場の事例>
前回まで政治・経済・社会・技術の4つの観点から「マクロ環境分析」を行いました。今回は、「ミクロ環境分析」を進めていきます。ミクロ環境は外部環境と内部環境に分類でき、外部環境となる業界の競争環境については「5フォース分析」、内部環境となる企業活動が生み出す付加価値などについては「バリューチェーン分析」を行います。このようなフレームワークを活用する利点として、目的に応じた必要な視点が整理されているため、情報の収集や分析を効率的に進めることができます。
~5フォース分析~
5フォース分析とは、「新規参入者の脅威」「サプライヤーの交渉力」「買い手の交渉力」「代替品の脅威」「既存企業同士の競争」という5つの要因から、参入余地や魅力がある業界なのか、それぞれの要因が自社にどのような影響を与えるのか、どこを攻略すれば収益につながるのかという観点で業界全体の魅力度を図るフレームワークです。
図1:5フォース分析 5つの競争要因

それぞれの競争要因について、みるべき視点を以下に挙げます。
■新規参入者の脅威
法規制、規模の経済、製品の差別化、仕入先を変更するコスト、流通チャネルの確保など
■サプライヤーの交渉力
サプライヤーの業界の寡占状況、サプライヤーの商品・サービスを代替するものがあるか、サプライヤーにとっての業界の重要度、サプライヤーを替えるコストなど
■買い手の交渉力
買い手の業界の寡占状況、顧客の商品・サービスに関する知識が豊富、商品・サービスが差別化されているか、顧客にとっての業界の重要度、顧客が仕入先を替えるコストなど
■代替品の脅威
間接競合の可能性、買い手が代替品に乗り替えるスイッチングコスト、代替品のコストパフォーマンスの高さなど
■既存企業同士の競争
多数存在する競合企業の規模が同程度、業界の成長率が低迷、業界内の差別化が困難、固定費が高いコスト構造、業界から撤退することが困難など
図2:各競争要因の影響と理由

各競争要因の影響と理由を図2にまとめていますが、独自の金属切削技術を活かして医療機器事業に注力していくことを予定しているタナカメタル工業の場合、どのような影響があるのでしょうか。
ひとえに医療機器業界と言っても分野は幅広く、手術支援ロボットのようなテクノロジーを駆使した装置、人体に埋め込む小型機器、手術用器具、計測装置など多種多様です。また、それぞれの分野でも最終製品を製造するのか、その部品/部材を製造するのかによって、医薬品医療機器等法や薬事法への対応有無など、参入障壁は大きく変わります。
タナカメタル工業は法対応が必要ないという理由から部品/部材の供給者として既に医療機器事業への進出をしています。今後は、自動車向けの部品供給で培ってきた独自の金属切削技術を活かしたインプラント用部品や手術用の器具を手掛けて、製品ラインナップの増加や販路拡大を目指していく意向があります。しかし、「新規参入者の脅威」の視点からみると、部品/部材供給であれば、他社においても参入障壁は比較的低いと言えます。
インプラント用部品における「買い手の交渉力」においては、最初にプレイヤーの数を把握する必要があります。帝国データバンクが保有する147万社の企業概要ファイルCOSMOS2では、1359の業種に企業は分類されているため、指定する業種に属する企業数を把握することが容易にできます。同社がメーカーへ販売するということであれば、「歯科材料製造業」は100社強、「歯科用機械器具製造業」は約50社という件数がデータベースから把握することができます。対象を「医療用機械器具製造業」や「医療用品製造業」へ広げると、企業数はさらに増えます。企業数を把握した後には、上述の「買い手の交渉力」にあるように主要プレイヤーの影響力などをみる必要があります。「サプライヤーの交渉力」についても同様のことが言えます。
また、「既存企業同士の競争」の観点では、競合企業の動向などもみる必要がありますが、こちらについてはバリューチェーン分析にて触れたいと思います。
~バリューチェーン分析~
バリューチェーン分析では、一連の企業活動のどの部分で付加価値が生み出されているのかを把握し、業界標準や競合企業のバリューチェーンと比較することで、自社の強みや弱みをあぶり出すことができます。
一般的な製造業のバリューチェーンを図3に示します。
図3:一般的な製造業のバリューチェーン

タナカメタル工業が競合企業と比較して、バリューチェーンのなかで強みを出していくためにはどのような活動が必要なのでしょうか。医療機器業界においては新参者となる同社ですが、「開発」においては産学連携の共同開発により従来から保有している技術を活かして付加価値の高い商品開発につなげることにチャレンジしています。「調達」においては、地域内での仕入先との連携を強化することで、納期や品質の向上に寄与しています。現在は行っていませんが、「生産」「物流」においては、単に部品を生産するだけではなく、部品のアッセンブリーができれば、買い手からみると付加価値となるのではないでしょうか。「販売」は現在でも、特定企業に依存するのではなく、小口分散しており、リスク分散できているといえます。
これらの分析を通じて自社が認識した強みが競合企業と比較して優位性があるかを調べてみましょう。公開されているホームページの情報や取引先からの評判からでもある程度わかるかもしれませんが、帝国データバンクが提供する信用調査報告書にはその企業の沿革から財務状況、取引先、強み・弱みなどを網羅しており、手早く情報収集することが可能となります。
このようにミクロ環境分析は、個々の企業のポジションや業界によって、影響の度合いが異なるため重要な分析です。
次回は、マクロとミクロの環境分析を整理して戦略を立案するためのSWOT分析を中心に掲載する予定です。

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