Ⅳ バリュードライバーの分析
企業価値の向上策で、どこにポイントを置くべきかを説明します。価値を向上させるに当たってもできるだけ効率的、効果的に実施すべきです。どこにポイントを置いて価値を向上させるかを分析する方法に“バリュードライバー分析”というものがあります。
1 バリュードライバーとは
企業価値を算出する際には、決算書のいくつかの勘定科目が使用されます。しかし勘定科目すべてが企業価値の算出に使用されるわけではなく、勘定科目によってはほとんど企業価値に影響を与えないものもあれば、影響を与えるものもあります。この影響を与えるものを“バリュードライバー”と呼びます。バリュードライバーは、一般的には次のものがよく言われています。
■売上高伸び率
■売上原価率
■売上高販管費率
■運転資本増減率
■設備投資率
以上からも分かるとおり、バリュードライバーは、言わば企業価値の主な構成要素とも捉えることができます。この構成要素をコントロールすることにより企業価値の向上を図ります。
2 ROICツリーによるバリュードライバーの分析
次に“ROIC ツリー”を使用して、前述のバリュードライバーを詳細に分析してみます。 ROICツリーは、バリュードライバーを体系的に分かりやすく分析するのに有効なツールです。一般的な財務分析を利用しても構いませんが、やみくもに財務分析を行うよりも、ROIC ツリーでの分析のほうが、体系的に重点ポイントを絞り込みことができます。
ROIC とは投下資本利益率のことで、企業を営むために投下された資本に対して、どれくらいのリターンを上げたのかを計るための指標です。投下資本とは、運転資本(営業資産)と固定資産の合計のことですが、有利子負債と純資産の合計でも構いません。利益は、NOPAT(税引き後営業利益)やNOPLAT(みなし税引き後利益)を用いるのが一般的です。 ROICを分解してその構成要素を分析するのが“ROIC ツリー”です。
例えばNOPATは、営業利益と営業利益にかかる税金に分解できます。

さらに税引き前ROICは売上高営業利益率と投下資本回転率に分解することができます。これにより収益性と効率性に分解されたことになります。次に収益性は、売上高伸び率、売上原価率、売上高販管費率などから構成されています。また売上高販管費率は、減価償却費率や研究開発費率、人件費率などから構成されています。
投下資本回転率は、運転資本回転率と固定資産回転率から構成されています。運転資本回転率は売上債権回転率、棚卸資産回転率、仕入債務回転率から、固定資産回転率は有形固定資産回転率と無形固定資産回転率から構成されています。このように考えていくと、バリュードライバーを詳細に把握することができます。

3 バリュードライバーの優先順位:感応度(影響度)分析
最後に、どのバリュードライバーどれくらい変化すれば、企業価値がどれくらい変化するかを把握する“感応度(影響度)分析”を紹介します。
同じバリュードライバーでも、価値の変化が大きい項目を優先的に向上させれば、より効率的に企業価値を高めることができます。逆にこれを間違えると、バリュードライバーを改善しているものの、なかなか企業価値が上がらないことがあります。このための分析を“感応度(影響度)分析”と言います。具体的には、ほかのバリュードライバーを一定にし、任意のバリュードライバーをひとつずつ変化させ、企業価値を算出し直していきます。例えば、売上高伸び率が10%変化した場合の感応度を見るとすると、ほかのバリュードライバーを一定にし、売上高伸び率だけを10%上下させ企業価値を算出します。あくまで感応度を見るために10%と設定しているのであって、売上高伸び率を10%上げなければならないというわけではありません。
同様にほかのバリュードライバーについても見てみます。すべてのバリュードライバーを変化させた結果、企業価値が大きく変化するものが優先順位の高い項目です。
例えば
A社:企業価値300億円の場合
売上高伸び率を10%上昇→企業価値が50億円上昇
売上原価率を10%削減→企業価値が20億円上昇
売上高販管費率を10%削減→企業価値が100億円上昇
運転資本増加率を10%削減→企業価値が10億円向上
設備投資率を10%削減→企業価値が40億円向上
であるとすると、どれが重要な項目になるでしょうか。グラフにしてみると分かりやすくなります。

上記の例では、売上高販管費率を変化させた場合が、最も企業価値が大きく変化します。従って、売上高販管費率が最も企業価値が変化しやすい(上がりやすい)項目ということです。これは売上高販管費率が最も感応度(影響度)の高い、すなわち最も重要な項目ということになり、次が売上高伸び率になります。このように企業価値の向上に最も有効な項目を判明させます。後は重要項目を中心にマネジメントしていき、経営計画や事業計画の優先順位とバリュードライバーの優先順位が一致するようにし、企業価値の向上を図ります。

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