今回は企業価値評価方法のひとつ「インカムアプローチ」の説明です。「インカムアプローチ」にも他の方法同様いくつかの方法があります。下図では「DCF法」と「収益還元法」に分けていますが、「DCF法は収益還元法のひとつ」、すなわち「DCF法(狭義)」、「収益還元法(広義)」のように捉える考え方もあります。その「DCF法」について複数回に分けて説明していきます。

Ⅲ インカムアプローチ(DCF法)
DCF法とは、『将来生み出す収益(将来のフリーキャッシュフロー)の現在価値合計を事業価値』とする評価方法です。そのロジックや概念は別の回に、今回は「DCF法のメリット、デメリット」を説明します。
1 DCF法のメリット、デメリット
DCF法のメリット、デメリットは、おおむね以下のとおりです。
DCF法のメリット | (1) 過去でなく将来を見据えている(ビジネスプランを反映させやすい) |
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DCF法のデメリット | (4) 将来計画の作り方によって価値が大きく変化する |
(1) 過去でなく将来を見据えている(ビジネスプランを反映させやすい)
前回まで説明してきた評価方法の多くが「過去の結果に尺度を置いている」という欠点を指摘されていました。「コストアプローチ」、「マーケットアプローチ」ともに、基本的に過去の数値や指標を基に価値を算出します。“今後このようになる”“今後このように推移する”という期待値を考慮した算出の仕方ではありません。過去の数値から算出された価値で企業を買うとなると、当企業の過去を買うという理屈になりかねません。確かに過去の数値はその企業が出した結果、すなわち成績のようなものであるため、重要ではあります。しかし健全な企業はゴーイングコンサーンとして将来に向かって進んでいくものです。例えばM&Aでも、ストラテジックなケースでは相手企業の将来を見込んで実行します。大企業同士のM&Aで、「この合併によってシナジー効果が見込まれ…企業価値が向上します」というような経営陣の言葉を、記者会見などで聞く機会が多いと思います。シナジー効果が見込まれるのは、当然M&A後、すなわち将来です。業績を向上させるのは、過去ではなく“将来”というわけです。このような将来を考慮すべきケースに適しているのがDCF法です。将来を見据えているわけですから、将来計画であるビジネスプランを反映させやすいとも言えます。
(2) 売上や利益より実態を映し出しやすいキャッシュフローを使用している
この点については、フリーキャッシュフローの算出方法にも関係しますので、別の回に説明します。
(3) 企業価値評価以外の場面でも応用がきく
DCF法は、単なる企業価値の評価方法のひとつではありません。減損会計での減損の認識の場面や、金融機関の貸倒引当金の算定の場面、資産の証券化や債権買取など各種資産のプライシングの場面、投資に対する事業性評価など、様々な場面で使用されます。DCF法の基本的な考え方を理解していれば、様々な場面で応用ができる非常に便利な方法で、これからのビジネスには必ず知っておくべきものです。
(4) 将来計画の作り方によって価値が大きく変化する
DCF法は、将来生み出される収益によって価値が算出される方法です。しかし将来の収益は予測するしかありません。あくまで予測ですから過去の実績や数値のように確定したものではありません。極端な話、どのようにでも作ることができます。従って将来計画の作り方によっては、価値が大きく変わってしまいます。将来計画を本来の予想より故意に良くすれば、価値をより大きくすることも可能です。しかし故意に良くなるように作成された将来計画が、論理的に説明できないものであれば、それにより作られた価値も信用されることはありません。DCF法は価値を自由に操作しやすいという欠点がありますが、その基となる将来計画が信憑性のないものであれば、いかに大きな価値が算出されようとも意味がありません。いかに論理的に説明できる将来計画を作成できるかが重要なのです。
(5) 相続や清算の場面では使用に適さない
(4)で述べたように、DCF法は価値を自由に操作できるという欠点があるため、相続の場面には適しません。前回の「マーケットアプローチ」の「類似業種比較法(類似業種比準法)」で述べたように、株価を操作して利益供与や節税を計ることが可能だと、税金上の公平さという観点から問題が生じます。従って相続評価の場合、DCF法は適当ではありません。
また清算の場面でも不適当です。DCF法は、企業をゴーイングコンサーンとして将来続いていくものとして捉えています。従って、企業の存続を前提としていない“清算の場面”での使用は不適当です。
このように、DCF法にはメリットもあれば他の方法同様デメリットもあります。完璧な方法は存在しません。大切なのは、各方法のメリットとデメリットといった特徴を把握し、使用する場面や目的に応じて適した評価方法を採用することです。

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