企業が持続的に成長していくためには、自社の強みを「活かす」だけでなく、「守る」ことも重要になります。そこで今回から3回にわたり、実際に企業の知的財産戦略を支援している専門家(弁理士 西原広徳氏)に、「知財戦略」の視点から見た知的資産経営について、分かりやすく解説してもらいます。
1.チャンスをモノにし、持続的に発展する会社
企業活動を続けていると、大口受注、思わぬヒット商品、マスメディア出演など、様々なチャンスが到来します。このようなチャンスを引き寄せ、モノにするためには、普段から準備をしておくことが欠かせません。その準備として、知的資産(人材、組織体制、ノウハウ体制、ビジネスモデル、実績、ブランドイメージ、顧客との関係、知的財産権など)が重要な役割を果たします。中でも、知的財産権による保護活動を普段から行っているか否かが鍵を握ります。知的財産権による保護を積極的に実行することで、チャンスをモノにして躍進でき、さらに、高い利益率の持続も可能になるのです。
2.知的財産権は身近にある
知的財産権というと、難しいイメージが先行し、「わが社には関係がない」となりがちです。しかし、その認識は正しいのでしょうか。世の中には、たくさんの知的財産権が存在しています。

【図表1:一製品中の知的財産権】
図表1の例では、ボールペンについて、ノック機構の技術を特許権で保護、外観デザインを意匠権で保護、ロゴマークを商標権で保護しています。このように、身近な1つの製品に知的財産権の要素がたくさんあります。また、知的財産権は、製品に限られるものではありません。非製造業でも、知的財産権として保護できるものは、いくつもあります。
例えば、ロゴマーク・社名・商品名・ブランド名を商標登録する、自社の業務を効率化するシステムの特許を取得する、自動車整備サービスにおいてボルトとナットの締結順序について、方法の特許を取得するなどがあります。
3.知的財産権のリスクと活用
知的財産権の活動を全くしていないと、リスクを抱えることになります。一方、知的財産権を取得し活用すると、いくつかのメリットがあります。これらを示すのが図表2です。

【図表2:知的財産権のリスクと活用効果】
このように活用効果を有する知的財産権ですが、無駄に取得すると費用がかさみ大変です。本当に価値ある知的財産権を抽出し、権利取得するために、“強み”を分類・整理しましょう。
4.バリューチェーンによる分類・整理
効果的な知的財産権の取得を目的として“強み”を分類・整理するため、第6回で紹介したバリューチェーンを活用します。
具体的に説明するため、一例として資格試験の通信講座を提供する塾を想定してみます。この塾の強みとして、
(1)独自性の高いテキスト
(2)答案に対して付加価値の高い採点と講評
(3)親切な事務対応
の3点があるとしましょう。この3点の強みを実現するため、バリューチェーンの各段階でどのような活動が行われているか整理します。図表3がその例です。

【図表3:バリューチェーンによる分類・整理】
各段階に活動を記載するとき、「独自性の高いテキストを作るために、企画開発の段階でどのような活動をしているか」といった確認をします。そうすると、「テキスト作成力」の他にも、「受験生から要望を収集する力に優れている」、「コンセプトを立案する力に優れている」、などの活動・強みが明確になってきます。
また、当初考えていた3つの強み以外にも、バリューチェーンの各段階で強みに気づけば、それらも記載していきます。
このようにして“強み”を分類・整理することで、漠然としていた“強み”も活動毎の強みに分解され、個々の力が明確になってきます。
また、こうして分類整理する際に、一つひとつの活動を見直して利益を高められないか検討します。そうすると、意外な利益ポイントが見つかることがあります。
例えば、先の塾で質問受付を有料化するといったように、高い価値のあるアフターサービスを有料化することで、継続した利益を得られるケースがあります。他にも、消耗品を専用品にして継続利益を得るという方法もあります。アフターサービスには利益の源泉が潜んでいることが多いため、合わせて検討しましょう。
5.強みに順位付けをする
活動別の強みを洗い出した後、この強みに順位付けを行います。こうすることで、無駄に知的財産権を取得することや、生産性の低い活動を開始してしまうことを防止します。重要部分に集中することで高い効果を発揮させます。この順位付けは、次の順番で行います。
(1)重要商品・サービス関連を抽出
売上高の多い商品・サービスに関連しているもの、利益率の高い商品・サービスに関連しているもの、今後の成長が見込まれる商品・サービスに関連しているものを抽出します。このとき、重要なポイントは、未来志向で順位付けすることです。知的財産権は、すぐに効果を発揮するのではなく、将来に効果を発揮するものですから、現在に加え5年後、10年後に重要と考えられるものを抽出します。
(2)顧客の期待に直結するものを抽出
社内で強みと思っていないものについて、顧客が良いと評価していることが意外にあるものです。また、社内で強みと思っていても、顧客は全く重視していない場合もあります。ですから、顧客への質問やアンケートにより、顧客の評価が高いもの、顧客が会社に期待しているものを確認します。そして、会社の考えている強みと顧客の期待が一致しているものの優先順位を高めます。
ここで1つ注意点があります。顧客の期待には、「安全性」や「信頼性」など、普段あまり言語化されない無意識のものもあります。この“無意識の期待”が裏切られると、顧客は離れていってしまいます。ですから、ブランドを傷つけないように、強みの順位付けは慎重に行いましょう。
このようにして“活動毎の強み”に順位付けをすることで、会社にとって重要な強みが明確になります。この強みが大切な知的資産であるとともに、知的財産権での保護を考えるべきものとなります。
次回は、分類・整理した強みを知的財産権(特許、実用新案、意匠、商標、営業秘密等)で保護する方法について説明します。
弁理士 西原広徳 (帝国データバンク契約コンサルタント、西原国際特許事務所長)
専門分野:特許(電気・電子・機械・ソフトウェア・日用品)、意匠、商標および各種知財戦略策定支援
https://www.nishiharapat.jp

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