1.“語りたくなる”会社
近年、老舗企業に関する研究や特集記事が増えてきていますが、これには2つの理由があると思います。 1点目は、老舗企業からこの不況を乗り越える秘訣を学びたいという機運が高まっていることです。2点目は、“ストーリー性”があるからです。長い歴史の中で、その時々の経営者が行った意思決定が唯一無二の物語を生み出していることに、人は興味を持つのでしょう。老舗企業が持つ“紆余曲折のストーリー”が、おもしろさを生み出しているのです。
“ストーリー”(narrative story)の観点から経営戦略や競争優位を考えるというビジネス書『ストーリーとしての競争戦略』(※1) が今年話題になりました。著者の楠木建氏は「優れた戦略とは思わず人に話したくなるような面白いストーリーだ」と述べています。企業にはすべてユニークなストーリーがあり、当事者にはすべてが“語りたくなる”会社であると私は考えています。また、聞き手(読み手)にとっても “聞きたく(読みたく)なる”会社をつくるためには、いかにしてそれぞれの持つユニークな面を、筋道の通ったストーリーとして伝えていくかが肝になるでしょう。
※1 『ストーリーとしての競争戦略-優れた戦略の条件』(楠木建著,東洋経済新報社)を参照のこと
2.“つよみ”と“つながり”の見つけ方
語りたくなる会社は、何も老舗企業だけではありません。TDBの調査員がベンチャー企業を訪問すると、経営者は自身の“創業ストーリー”を熱心に話すことが少なくありません。また、数年前に放映されていたテレビ番組「プロジェクトX」は、事業や製品開発という点にフォーカスし、ストーリー化したことが、視聴者に分かりやすくヒットにつながったとも言えます。
第3回から第5回にかけて解説してきた「知的資産のストーリー化」の方法について、ここではもう少し具体的に3つのポイントで説明します(図表1参照)。

【図表1:つながりのみつけ方】
(1)強みを深く掘り下げる
自社の売れている製品、商品、サービスについて、それぞれの特長を上げ、さらに特長を生み出すための秘訣を追求します。これは、第3回の「知的資産を“知る”」で解説した、「強み」を深く掘り下げ連鎖させていく方法です。この方法は自社の「製品」、「商品」、「サービス」など業務上馴染みのあるものから掘り下げていきますので、初心者でも取り組みやすいといった特長があります。
(2)バリューチェーン(業務の流れ)で見ていく
業務の流れ(価値が生み出される過程)ごとに、知的資産を探索していく方法です。中小企業の場合、「製造が強い会社」、「営業力がある会社」などといったように、バリューチェーンの一部がその会社の強みと捉えられていることが一般的です。ただ一方で、その他の業務が強みとなる部門を支えていることも多く、全業務で強みを考えることは、非常に重要です。また、業務ごとに組織(部門)が分かれている会社では、一度各部門で自社の強みを掘り下げ、持ち寄ってつなぎ合わせると、それぞれの強みを発見できるだけではなく、強みの連鎖によって会社全体の付加価値がどのようにして生み出されるかを俯瞰することができます。
(3)時系列で追う
創業時から現在に至るまでを時間軸で追っていく方法です。会社の歴史を紐解くことで、経営者自身も見えていなかった隠れた強みに気づくことも、少なくありません。「(3)時系列で追う」のような分類方法以外にも、経営者ごとに区切ったり、事業や部門のスタート・撤退時期ごとに区切ったりすることがあります。
その他にも強みの抽出方法はさまざまですが、重要なのはその“つながり”を見つけることです。大半の知的資産は個々では大きな価値を持たず、それぞれ関係し合って初めて真の価値を生み出します。つまり、強みを個別で捉え、要素還元的に語るのではなく、因果関係を整理して、一貫性を持たせることが知的資産経営のストーリー化には不可欠です。
3.自社の強みをつなぐ~価値創造のストーリー~
実際に知的資産をつないで、自社の独自性、競争優位性を“魅せていく”方法としてよく用いられるのが、「価値創造のストーリー」です。(第3回「知的資産を“知る”」【図表5:強みの抽出と連鎖】参照)
図表2はTDBの価値創造のストーリーを簡略化したものです。

【図表2:TDBの価値創造ストーリー例】
TDBでは、さまざまな企業情報の提供などを通じて、「信頼できる情報パートナー」を目指して、事業を展開しています。例えば、新聞やテレビで聞く「帝国データバンクによると・・・」で始まる各種調査や、取引先を知るための企業信用調査などは、みなさんに見える成果物の一部です。 その背景には全国83拠点にいる約1,700名の調査員が、日々の企業訪問を通じて、110年間にわたり蓄積してきた国内最大級の企業情報データベースがあります。また、こうした地道な活動により構築してきた多くの調査先やお客さまとの関係が、タイムリーな情報の入手を可能にしています。
そして、TDBが最も大切にしているのが「現地現認」という調査スタンスです。情報技術が発達した現在でも、自分の目と耳で事実を確認するという基本行動を徹底して続けてきたことが、他社が真似をできない差別化の源泉であり、信頼できる情報パートナーとして“Only one”の地位を確立しています。
このように企業が保有する知的資産は、それぞれがつながり、相互作用することで価値を生み出します。また、強みのつながりを見える化することは、「より強化しなければならない部分」や、「補わなければならない部分」など、その会社が持っている経営課題の把握も可能にします。
価値創造のストーリーを作成することは、創業時から現在までの間に、自社が生み出した知的資産をつなげ提供してきた価値を知ることができ、今までの経営を見つめ直すきっかけになります。
つながりを見つめ直し、ストーリーで「魅せる化」することは、社外との関係強化のみならず、社内の組織力を強化するためにも非常に重要になります。知的資産の視点で自社を見つめ直しながら将来を拓く、「価値創造のストーリー」を貴社でも作ってみましょう。

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