1.経営の“魅せる化”~“強み”を“カタチ”にする~
規模の大小を問わず、活動しているすべての企業は何らかの強みを持っています。しかし、強みを保有するだけでは持続的な成長は期待できません。特に中小企業の場合、保有する経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)が限られているため、激しい競争環境下で生き残っていくには、外部関係者から必要な経営資源を調達し、自社の経営に活かすことが不可欠です。
顧客、仕入先、協力会社、株主、銀行、従業員、周辺住民など、企業はさまざまな関係者に支えられて成り立っています。その支えてくれている関係者に対し、効果的に自社の“強み”を“カタチ”にして伝える“魅せる化”こそ、非常に大切な取組みであるといえるでしょう。
【図表1:企業を取り巻く利害関係者】

一般的に会社の情報を伝えるツールとしてよく利用されているのは会社案内です。また、近年ではホームページ等がその役割を担うことが少なくありません。各社ともさまざまな工夫を凝らして、それらの媒体を通じて自社の魅力を伝えようとしています。しかし、見た目の美しさにこだわり過ぎるため、会社の本質的な部分を伝え切れなかったり、信頼性が担保できない情報を開示してしまい、関係者に充分な理解が得られなかったりなど、結果的に意図していた効果が得られないこともよくあります。
特に自社にとって大切な関係者に対しては、充分な理解を得た上でさまざまな連携を図ることが必要です。こうした課題の解決策として、近年、知的資産経営報告書を作成し、コミュニケーションツールとして利用する企業が増えてきています。
2.報告書の開示内容 ~何を伝えるべきか~
では、知的資産経営報告書には具体的に何を記載すればよいのでしょうか?
知的資産経営報告書は開示義務がないこともあって、報告形態は自由であり、すでに開示されている報告書の事例を見ても、その報告形式や内容は各社で異なっています。また、他社との競争優位の源泉となる知的資産は独特なものである場合が多く、その効果的な表現方法も異なるため、すべてが定型の様式で収まるものではないとも考えられます。
ただ、初めて作成する企業に参考にしてもらうために、経済産業省の「知的資産経営ポータル」 サイトでは、「知的資産経営報告の開示事例」というページを設けて、さまざまな業種、業態の企業が開示している知的資産経営報告書を自由に閲覧できるようになっています(2010年10月末時点で119社が開示)。
また、中小企業基盤整備機構が発刊した「中小企業のための知的資産経営マニュアル」 および「事業価値を高める経営レポート」では、代表的な項目例として次の項目を挙げています(図表2を参照)。
【図表2:知的資産経営報告書の記載事例】
中小企業のための知的資産経営マニュアル | 事業価値を高める経営レポート作成マニュアル |
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3.知的資産経営を整理してみる~事業価値を高める経営レポート~
報告書を作成し関係者に見せることで、関係者が自社についてどの程度理解しているかを互いに共有できるという相互理解を深める“コミュニケーションツール”として活用できます。さらに、経営者の頭の中を整理したり、KPI(重要業績評価指標)を設定することで経営戦略の進捗具合を測ったりすることで“マネジメントツール”としても活用できます。また、経営幹部や後継者、社員たちと一緒に作ることで、経営の視点を醸成するといった“エデュケーションツール”としての効果も作成企業からは聞かれます。
しかし一方で、いきなり数十ページの報告書を自社内だけで作るのは、相当の負担があることも事実です。そうした意見を踏まえて、中小企業基盤整備機構では知的資産経営報告書の“凝縮版”ともいえる「事業価値を高める経営レポート」を2008年11月に公表し、作成の普及を行っています。

【図表3:事業価値を高める経営レポートの骨子】
(出典:中小企業基盤整備機構『事業価値を高める経営レポート』p4より)
同レポートは、「企業概要」、「外部環境」、「内部環境」、「価値創造のストーリー」、「知的資産の連鎖」の5つのパートに分かれており、図表3の通り、左側を自社の分析内容を記載する項目に、右側を分析に基づいた自社の展開方法を記載する項目にしています。
詳細な記載内容などについては、前掲の「事業価値を高める経営レポート作成マニュアル」を参照いただければと思いますが、すでに作成した企業の中には、社長自身がこのシートを活用して、1人で整理し、従業員に対する戦略浸透化に活用した事例や、取引金融機関の渉外担当者と共に作成し、自社についての相互理解を深めた事例が聞かれます。
4.良い知的資産経営報告書とは?
知的資産経営報告書は任意で作るものですから、記載内容は発行体(作成する企業)が決めれば良いのですが、大切な関係者に興味を持って読んでもらうためには、自社が伝えたい情報と読み手の知りたい情報の両方が記載されていることが重要です。
- 自社の伝えたい情報が記載されている報告書
自社が伝えたい情報とは、自社の売り(強み)となる情報と、見せづらかった(表現しづらかった)情報です。自社の売りになる情報については、多くの企業でさまざまなツールを使い発信していますが、極力客観的な指標(KPI)などを用いることで信頼性が増します。また、見せづらかった情報とは、例えば複雑なビジネスモデルなど口頭で説明するのが困難な場合のことで、図示して分かりやすく伝えると理解を促進することが出来ます。なお、作成時には自社のビジネスに詳しくない人の視点から客観的な意見を聞くことで、より伝わりやすい情報を提供することが可能となります。 - 読み手が知りたい情報が記載されている報告書
読み手が知りたい情報とは、外部が期待している情報、不安に思っている情報、外部情報では知りえない情報です。特に不安に思っている情報は、一見“魅せる化”とは関係ないように思われますが、不安に思っている情報を補完することができれば効果は絶大です。強みだけでなく、弱みや外部環境要因である機会・脅威を伝えることで、自社の経営を客観的にとらえていることをアピールする効果があります。また、課題を補完する取り組みや、抱えているリスクに対して想定する施策を開示し、場合によっては関係者からのアドバイスや支援を得ることができれば、より関係を強化することにもつながります。
このように知的資産経営は、自社の見えにくい強みである「知的資産」を把握し、活用するだけでなく、自社にかかわるさまざまな関係者に伝え、理解してもらうことが重要です。

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