レポート第1回:見えざる資産が企業を変える

2010/09/01

1.「優良企業」について考える

突然ですが、みなさんの考える「優良企業」とはどのような企業でしょうか?「知名度のある企業」、「売上の多い企業」、「利益率の高い企業」、「内部留保が充実した企業」、「成長力のある企業」・・・など、答えはさまざまでしょう。
帝国データバンクでは、全国に約1,700名の調査員が在籍し、日々、全国の企業を訪問させていただいていますが、最近訪問時に一番多く受ける質問の1つに、「良い会社を教えてください(紹介してください)」というものがあります。(数年前までは「危ない会社はありませんか?」でしたが・・・)厳しい経営環境が続く中で、「良い会社」を知り、ベンチマークしながら自社の経営に生かしたいという思いの表れかもしれません。

なお、現実的には「優良企業」を知り、その真似をするだけでは持続的な成長を実現することは難しいと言えます。仮に類似業界に身を置き、企業規模や諸条件が似ていたとしても、持っている経営資源やその使い方によって、全く異なる結果が生まれることはよくあります。また、取り巻く環境の見方についても、企業経営はさまざまな要因が絡み合って成立しているため、そのとらえ方によって結果は変わってくるでしょう。(図表1参照)

【図表1:企業を取り巻く経営環境】

では、「優良企業」の成功要因を知ることは無意味なのでしょうか? 私たちはそうは考えていません。特に経営資源の限られている中小企業においては、資源を無駄にしない意思決定が不可欠です。他社の成功要因を知ることは、意思決定の選択肢を増やします。これをきっかけとして、自らの経営環境を見つめ直し、自社に合った戦略・戦術を策定することができます。

そして、意思決定のためには「我が社はどんな経営資源を持っているのか」といった“内”(内部環境)視点と、「我が社を取り巻く環境はどのように変化しているのか」といった“外”(外部環境)の視点の双方を踏まえた偏りのない戦略策定も重要となるでしょう。

2.不況の時こそ、老舗企業に学ぶ

不況だけでなく、戦争などさまざまな出来事、環境変化に対応し、荒波を乗り越えてきたという意味では、老舗企業も優良企業の1つと言えるかも知れません。老舗企業が持つ“強み”から優良企業を生み出した秘訣を考えてみましょう。

2008年に帝国データバンクで実施した「長寿企業アンケート調査」(※1) によると、老舗企業が考える自社の強みについて、図表2のような結果が出ています。強みは業種や企業規模などさまざまな要因によって異なりますが、金銭資産や物的資産など目に見える(バランスシートに計上される)資産はほとんどなく、「信用」(73.8%)、「伝統」(52.8%)、「知名度」(50.4%)、「地域密着」(43.1%)といった「見えざる資産」を挙げていることに気づかされます。

【図表2:老舗の強みは何だとお考えですか?(複数回答可)】

「老舗ののれん」という言葉をよく耳にします。「のれん」とは日よけ、塵よけに用いられる物理的な「のれん」に、商標や屋号を染め抜いたことなどから生まれた言葉ですが、現在では企業のブランドやイメージなど重要な経営資源として用いられ、信頼の証として用いられることが多いようです。このように「のれん」が単なる営業権といった意味合いだけでなく、信頼や品格の証拠として用いられているのは、長年にわたり関係者に対しての期待にこたえてきた歴史や文化などがあるからであり、財務諸表には現れないものの一朝一夕で生み出せることができない重要な「強み」の結晶であると言えるでしょう。

企業が保有する経営資源は非常に限られています。特に中小企業においては、最適な資源配分が自社の業績を大きく左右するといっても過言ではありません。そのため、設備などの有形資産や金銭資産等だけでなく、見えざる資産にもフォーカスをあて、その把握、活用を通じて企業価値の向上につなぐことこそが、不況下の経営には重要なのです。見えざる資産をきちんと自社の強みとして認識し、有効活用することが、老舗企業の存続・発展の鍵とも考えられます。

※1 株式会社帝国データバンクが保有する企業概要データベース「COSMOS2」の中で、明治末年(1912年)までに創業した長寿企業24,234社から4,000社を抽出し、アンケート調査を実施。(調査期間:2008年3月24日~4月10日、回答数:814社〔回収率20.4%〕)

3.見えざる資産のとらえ方

ここ数年、日本ではこの見えざる資産を「知的資産」(Intellectual Assets)という名称で呼び、さまざまな取り組みが開始されています。「見えざる資産」という通り、もともとは見えにくい(可視化しづらい)資産ですから、社外の人間だけでなく、社内の人間でも気づいていないことが少なくありません。
ただ、把握しづらいものだからこそ、競合他社などにとって模倣しづらい差別化のポイントであるとも考えられます。
そこで見えざる資産を把握してもらいやすいように作成した、知的資産を念頭に置いた「貸借対照表の俯瞰図」が図表3です。現状、オフバランス資産を通常の貸借対照表のように金銭価値で測る手段は確立されていませんが、このように簿外に企業の真の強みとなる「知的資産」があることを“見える化”し、認識することは非常に重要です。

【図表3:貸借対照表の俯瞰図】

ただ、私たちが経営者にこの「知的資産」についてお話すると、大半の方々が「ウチには“知的”なものは無いから」と謙遜されます。しかし、企業調査でお話を伺っていると、企業規模の大小を問わず、キラリと光る知的資産を持つ企業が多いことに気づかされます。言い換えると、生きている企業すべてに存在意義があるとすれば、どんな会社でも何らかの知的資産を保有しているとも言えるのではないでしょうか。
この知的資産を見えないものとして埋もれさせるのでなく、把握し、活用することで持続的に成長させる知的資産経営について、次回以降具体的にお話していきたいと思います。

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