レポート第27回:タイの会計事情(2)

2013/01/18

今回は、過去の掲載で反響の大きかった「タイの会計事情」についてもう少し具体的な会計基準の議論や税務面での留意事項について取り上げます。具体的には、(1)退職給付会計の適用について、(2)有形固定資産のコンポーネント・アカウンティング、(3)IFRSとTFRSの差異について、(4)税務面での留意事項について取り上げます。

今回も、タイに駐在をされている公認会計士の方に、タイの会計事情について電話でお話を伺いました。

タイでは、人件費の高騰が続いていると伺っています。前回少しだけお話にありました、退職給付会計の適用について教えてください。

まず、人件費の高騰についてですが、前回もお話したように、最低賃金の上昇等に起因する人件費の高騰と人材の獲得競争は非常に深刻な状況です。企業によっては基本給の6~8倍の賞与を支払っているようなケースもあります。当然、高い賃金・賞与が支払われる企業に次々と労働者は集まりますから、業績が厳しく、人件費を抑えたい企業の労務管理は非常に厳しくなっています。

このような環境下ですから、当然に人件費に関わる退職給付会計も重要度が増しています(*1)。
現地での退職給付会計の適用に際して難しいのが、退職給付引当金の計算方法に関する具体的なガイドラインがないことです。従って、多くの企業では労働者保護法の規定に沿った形で自社の退職金規定の基本を作成し、これに会社としての方針を盛り込んで退職給付引当金の計上を行っています。どこまでを退職給付引当金の対象とするかは難しい問題ですが、一つは、一般的には基本給与の高い年齢が一定以上の社員を対象にする方法が考えられます。非上場企業の場合には、離職率や昇給率についても無視する(0%設定)実務も見受けられます。

(*1)ただし、非上場会社向けの会計基準であるNPAEs(Non- Publicly Accountable Entities)において、TAS19は任意の適用となっています。

IFRS(TFRS)適用に際して、退職給付会計の他、どのような会計基準が議論となったのでしょうか?

非上場の日系企業でも中規模以上の企業が対応を求められたのが、固定資産のコンポーネント・アカウンティングです。もともとタイの税法(内国歳入法)においては、細かな減価償却方法・減価償却単位の定めがなく、基本的には会計上の償却方法に従っていました。以前はタイでは製造ライン一式を償却単位としているなど、かなり大きな償却単位の設定もみられましたが、2011年度からはTFRSが適用されたことにより、IAS16 有形固定資産(TAS16)でも求められている減価償却単位の見直しを迫られました。

ただし、結果としてはそれほど細かな対応が求められた例は少なく、今まで製造ライン一式で償却を行っていたものについて主要設備と付属設備で耐用年数を区別したり、製造用の機械設備とオフィス用の機械設備の償却年数を区別するといった対応で監査上は対応できた例がほとんどです(*2)。

個人的な感想としては、日本の法人税法に基づく資産別の償却方法の方が、はるかに細かな償却単位・償却年数となっていると思います。

現地会社が親会社と同様のビジネスを行っている場合には、親会社の償却方法・耐用年数を参考にする方法も考えられます。

(*2)なお、その他にも、2011年度以前取得資産についてもコンポーネント・アカウンティングが必要かといった点も論点となりますが、監査人との事前協議が非常に重要です。

現在のタイの会計基準であるTFRS(Thai Financial Reporting Standards)は基本的にIFRSと同一内容とのことでしたが、いくつかの会計基準については、IFRSとTFRSで差異があると聞いています。会計基準間で差異のある項目についても教えてください。

概ねTFRSはIFRSと同様の基準となっていますが、いくつかの規定についてはタイ独自の解釈指針があります(TAS101号以降)。

特に金融商品関係の規定については両者に差異がみられます。例えばTAS39の金融商品‐認識と測定ではIAS39と異なり、ヘッジ会計に関する詳細な規定が定められていません。よって、為替リスクのヘッジ会計として日本企業が多く採用している振当処理も会計基準上は許容されるものと考えられます。

この他TAS101では、貸倒引当金の計上に関するガイドラインが規定されていたり また、TAS104からTAS106といった基準では米国の会計基準であるSFAS等の基準に準拠したガイドラインとなっている点は注目に値すると思います。

タイでビジネスを行う上で、税務面で注意すべき事項にはどのようなものがあるでしょうか?

まず、タイは外国ですので、外国税額控除や移転価格税制といったタイでも定めがあるルールについては検討が必要ですが、まだ国際課税に関するルールはそれほど細かなものがありません。むしろ、海外取引に係る日本国内での課税リスクに留意すべきでしょう。

次に、VAT(付加価値税)については注意が必要だと思います。タイでは税収の確実な確保の観点から、VATは全ての企業が毎月の申告・納付を行うことが義務付けられています。

VATの無申告や過少申告に対する加算税が200%と大変高いため、企業にとっては日々の取引の正確な記録と証拠書類の適切な保存を行う必要があります。

日本企業も立ち上げ時には、支払VATが預りVATを上回るケースが多く、還付申告を行うケースがよく見られます。還付申告を行った場合には原則として、税務調査が行われますので、事業立ち上げ間もない時期からもこのような税務調査に対応できる体制を構築する必要があります。

なお、タイでは未だに紙ベースでの書類保管が基本であり、これらの保管期間や整理の方法が煩雑になることもあります。この点、タックスインボイスやこれに関連する証憑類については税法上5年間の保管が要求されており、これに基づいて各種書類の保存期間を設定している企業もあります。

余談ですが、ユニークな税として、看板税という看板の所有者に対して課せられる税金があります。この看板税は看板の面積に対して一定の税率を乗じて計算されるものですが、この税率はタイ語のみでできている看板がもっとも安くなっています。つまり、外国語表記の看板には高い税金がかけられるという仕組みになっています。

【参考文献】

■久野康成公認会計士事務所 株式会社東京コンサルティングファーム 小林守著「タイの投資・会社法・会計税務・労務」
 (2011年 TCG出版)

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