今回は、前回のタイに続く海外会計事情として、中国の会計事情について取り上げます。
中国の会計事情については「1 最新情報 中国の会計事情」で一度取り上げていますが、その後も中国の企業会計を取り巻く環境は大きく変化しています。中国においては2011年から一部の上場企業に対して内部統制報告制度の適用が始まり、現在もその適用企業は増加しています。また、原価計算制度の定着や企業価値評価基準の制定、さらに小規模企業向けの会計基準である「小企業会計準則」も2011年に公表されるなど、企業会計を取り巻く環境は大きく変化しています。
今回は、中国に駐在をされている公認会計士の方に最新の中国の会計事情について電話でお話を伺いました。
中国の会計基準については、ほぼIFRSと同等といわれている(新)企業会計準則が適用されていると思いますが、実際の運用状況はどうなっていますでしょうか?また、IFRSは適時に改訂が行われていますが、これに対する中国の対応はどのようになっていますでしょうか?
まず、指摘しなければならないのは、2012年4月にEUは中国の(新)企業会計準則について欧州委員会(EU)は、韓国やカナダの会計基準と同様に同等性評価を与えたという点です(*1)。
中国では2006年に(新)企業会計準則及び38個の具体準則が公表され、2007年1月に国内上場企業等への強制適用が始まっています。その適用範囲も年々拡大されていますから、本来であれば、全ての企業が(新)企業会計準則を適用して会計処理を行うべきなのですが、以前にも指摘したように(*2)「中国では地域によって会計基準の適用ルールが異なる」という現状があります。例えば、深センの大中型の日系企業では新基準が強制適用となっていますが、上海の企業では適用する基準が統一されていません。日本企業でも(旧)企業会計準則を採用している企業も少なくありません
中国のIFRS対応の基本的なアプローチは、IFRSの規定を基礎にして自国の会計基準を策定していくというアプローチです。IFRSは適時に改訂されていますから、本来であれば、それに対応する形で中国基準も改訂されるはずなのですが、(新)企業会計準則は公表後、改正されていません。
中国の主張としては、「IFRSと中国基準は実質的に同一」ということなのですが、実際の基準の内容については、IFRSが中国国内向けにローカライズされており、公正価値会計の適用を限定的な場合に限って認めるというような記述もあります(*3)。
(*1)同等性評価については欧州委員会のウェブサイトを参照して下さい。
(https://ec.europa.eu/internal_market/accounting/third_countries/index_en.htm)
(*2)「1 最新情報 中国の会計事情」を参照して下さい。
(*3)中国の主張ではIFRSと(新)企業会計準則の差異は、IFRSが減損損失の戻入を規定しているのに対して、(新)企業会計準則の規定(準則8号「資産の減損」)では、一部の資産を除き公正価値の回復によっても減損損失の戻入は認められないという点でだけであるとしています(参考資料:金融庁企業会計審議会・企画調査部会合同会議資料 https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kigyou/siryou/soukai/20120217.html)。
中国の内部統制報告制度の導入はどのようになっていますでしょうか?
中国では2011年に内部統制関連指針が公表されています。この指針は「企業内部統制応用指針」「企業内部統制評価指針」「企業内部統制基本規範」から構成されています。2011年から中国の国内外で同時に上場している企業に対して適用され、2012年からは上海証券取引所及び深セン証券取引所のメインボード企業に適用範囲が拡大されています。また、その他の企業についても適用することが推奨されています。
中国の内部統制報告制度は米国のSOX法・COSO報告書をそのまま取り込んだようなもので、中国企業のビジネスに適合しているとは言えないという問題点も多く指摘されています。
中国では、企業価値評価基準が整備されつつあるということですが、この背景はどのようなものなのでしょうか?
企業価値評価というと、買収や会社分割といった複雑な取引を想像しますが、中国では複雑なM&Aの必要性から企業価値評価基準の整備が行われているという訳ではありません。中国に進出した日本企業でも、事業実績が当初の想定を下回り撤退を行うケースも増えてきています。この場合に現地企業に持分譲渡を行うケースが多く、この際に企業評価を行う必要性が高まってきたという背景があります。
現在の中国の企業価値評価基準は、2004年に公表された「企業価値評価指導意見書(試行)」を基にした「資産評価準則‐企業価値」であり、この基準は国際評価基準審議会が公表している国際評価基準を参考にしています。「資産評価準則‐企業価値」では収益法(収益還元法・DCF法)、市場法、原価法が採用されており、ほぼ一般的な評価ルールとなっているといえます。
但し、中国の現地サイドがDCF法のような企業価値評価の手法を熟知しておらず、結果として時価純資産法のような方法で評価が行われてしまうケースや、国有企業との合弁のケースでは中国の法律による法定評価の対象となるケースなど例外的な事象も生じる点には留意が必要です。
その他、中国の会計事情でトピックスはありますか?
まず、近年原価計算制度の整備が進んでいるという点が挙げられると思います。これは、中国の伝統的な原価計算制度が、「期末において仕掛品を計上しない」というような非常に精度の劣るものであったことが、中国の海外輸出戦略上の障害ともなっており、改善の必要に迫られたためです。しかし、元々、原価計算を厳密に行うという実務がない国でしたので、実際にこれが運用され、機能するかどうかについてはやはり不透明です。
また、2011年には、「小企業会計準則」が公表されています。これは公開企業や金融機関、グループ企業等を除いた小規模企業が適用することができるもので、イメージとしては税法基準に近い基準と言えます。
【参考文献】
■有限責任あずさ監査法人中国事業室/KPMG編著「中国子会社の投資・会計・税務」(2012年 中央経済社)

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