レポート第7回:IAS16~減価償却とIFRS

2010/12/21

今回はIFRS最新情報として、IASBがリリースした“Occasional Education Notes:Depreciation and IFRS”について取り上げます。この記事はIASBのWayne Upton氏が11月19日に「個人的な見解」としてリリースしたものです。この記事において取り上げられている項目はIAS16「有形固定資産」の論点のうち、

■コンポーネント・アカウンティング

■残存価額の見積り

■耐用年数の見積り

■減価償却方法

についてです。

この文章はIASBのホームページ(*1)で閲覧することができますが、「筆者の個人的見解であり、IASBの公式見解ではない」旨のコメントが付されている点には留意が必要です(*2)。
またこの記事がいわゆる原則論(プリンシプル)となるIFRSの規定を掲げた上で、それに対する解釈・検討を加えている点は、実務適用の方法論として参考になります。

今回はこの記事についての要約を示しながら、実務上の取り扱いについて考えます。

(*1)原文については、https://www.ifrs.org/Use+around+the+world/Education/Occasional+Education+Notes.htmを参照してください。
(*2)ちなみに、IASB関係者は自由に意見発信をしていいことになっており、それが奨励されています。

コンポーネント・アカウンティング

いわゆるコンポーネント・アカウンティングについてUpton氏は「多くの企業は複数の固定資産を一つの勘定に統合してしまいがちである-特に建物、飛行機、石油精製設備等についてはこれらを単一の資産として取り扱ってしまうことが多い。」と指摘したうえで、IFRSの趣旨がすべての固定資産についてより細かな構成単位に分割して固定資産の会計を行うことにあるわけではなく、「重要性が乏しいにも関わらず固定資産を構成するすべての構成部分について原価を割り当てることにはあまり意味がない」と説明しています。そして、その例として「建物の中のエレベータやエアコン設備は建物本体よりも耐用年数が短いことや製造工場における特注の製造ラインは他の汎用製造ラインよりも耐用年数が短いことは明確である。IFRSは減価償却計算を行うに当たり、このような構成部分について原価を割り当てることを要求しているに過ぎない」としています。

残存価額の見積り

残存価額の見積りについてUpton氏は、IAS16が毎期の見直しを要求していることを挙げた上で、「この規定は経営者に毎期有形固定資産の残存価額について詳細なレビューを要求するものではなく・・・判断が要求される」ものであるとしています。

例えば、「航空機のように資産によってはその残存価額がその年ごとに大きく変化するものがある一方で、工場設備などはその年ごとに残存価額が大きく変化するとは考えられない資産がある」ため「経営者は資産価値の変動を特定し、監視するための自社のポリシーを定めることが肝要である」としています。

また、Upton氏は、「全ての資産を名目上の金額(1円)まで償却するような包括的なポリシーは基本的に認められない」とも指摘しています。

耐用年数の見積り

Upton氏は「IAS第16号の耐用年数は、・・・企業が実際に当該資産を使用する予定の年数である・・・実際にはその期間は資産の経済的耐用年数とは異なるかもしれない。」とした上で、「例えば、経済的耐用年数が10年である車両について考えてみよう。企業は車両を3年間使用し、その後新しい車両と交換するというポリシーを持っていたとする。このような場合、実際の耐用年数は10年というより3年と考えるべきだろう」との例示を示しています。

これは、資産の使用実態に照らして耐用年数を算定した例をですが、最近ではIFRS適用を睨んで、日本企業でも使用実態に即した見直しを行っているケースも散見されます。耐用年数の変更を行った企業の開示例を見てみましょう。

(耐用年数の変更)

当社及び一部の国内及び在外連結子会社は、中期計画策定を契機として、第1四半期連結会計期間に過去の機械装置の使用実態を見直した結果、一部を除き従来の耐用年数よりも長期に使用可能であることが明らかになったため、第1四半期連結会計期間に耐用年数を変更し、従来の4~7年から4~9年に変更しました。

(アルプス電気株式会社 平成22年度第1四半期報告書より)

(追加情報)機械及び装置の耐用年数の変更

従来、当社及び国内連結子会社の機械及び装置の耐用年数は、主として法人税法に規定する方法と同一の基準によっておりましたが、一部の事業において、大型の設備投資を実施したことを契機に、同種の既存設備について第1四半期連結会計期間より耐用年数を見直しております。この見直しは、当該設備の物理的耐用年数並びに、製品寿命、製法の陳腐化リスク等の経済的耐用年数を総合的に考慮して決定されたものであります。

耐用年数の変更内容

変更前

変更後

銅製錬設備の一部

7年

16年

銅加工設備の一部

7年

12年

多結晶シリコン製造設備

7年

13年

アルミ製品製造設備の一部

7年

12年

(三菱マテリアル株式会社 平成22年度第1四半期報告書より)

また、グローバル企業で世界各国に展開している場合、資産の耐用年数は国・地域にかかわらず同一でなければならないのかという問題があります。資産の使用状況や経済環境等は国・地域ごとに異なると考えられるので、グローバルに展開している企業では各国で用いる耐用年数が必ずしも同一である必要はないと考えられます。実際に企業によっては資産の耐用年数についてある程度の「幅」を持たせるという対応も行われています。

減価償却方法

今回リリースされた記事の中でUpton氏が最も多くの紙幅を割いているのがこの「減価償却法について」です。日本のメディアの中にはこれを「固定資産の償却方法についてIASBが定率法を容認した」とする報道もありましたが、決して「定率法の使用をIASBが公認した」とか「定率法が選択可能になった」わけではありませんし、「償却方法が任意に選択可能」というわけではありません(つまりIFRSにおいては減価償却方法の選択は会計方針の選択の問題ではない(*3)ということです)。

Upton氏は、企業は資産の将来の経済的便益の消費のパターンを反映するように減価償却方法を選択する必要があることを繰り返し強調しています。「むしろ減価償却方法の選択及び減価償却費の計上パターンはIAS8号-会計方針、会計上の見積りの変更および誤謬の32項~38項までの規定によって制限される」とも指摘しています。

また、定額法について、欧州において多くのIFRS先行企業が定額法を採用しているからといって、「IAS16において定額法が他の方法よりも優れた方法であるわけではない」と指摘しています。

定額法よりも定率法を用いる方が合理的である状況として記事では「例えば、多くの資産はその使用期間が経つにつれてより多くの修繕やメンテナンスが必要となるだろう。同様に経営者は資産の使用期間が経つにつれて当該資産から生産される生産物の価格は下落するものと考えるだろう。これらについてはいわゆる「定率法」が資産の将来の経済的便益の消費パターンを適切に示すものであると考えられる」という例が用いられています。この例は会計実務に携わっておられる方々には納得がいく説明ではないでしょうか。この例からも明らかなように、決して「IFRSでは定額法が優先して適用される」ということではないのです。

さらにUpton氏は多くの固定資産が計上される製造工場について定率法を用いる方が合理的な場合として、「例えば250種類の固定資産が登録されている製造工場について考えてみよう。経営者は定率法がこれらの資産の主要な部分についてもっとも資産の経済的便益の消費パターンを適切に反映する方法であると考えている。そこで、定率法をすべての固定資産に適用し、記帳の簡略化を図ることは可能であろうか?・・・製造工場の主要な資産が『定率法的な』パターンで消費されるのであれば、経営者が他の資産もそれと同様の消費パターンとなると主張することは合理的であると考えられる」という状況を挙げています。

(*3)IFRSにおいては、減価償却方法の選択は会計方針の選択ではなく、会計上の見積り方法として位置づけられているといえます(IAS16.61を参照)。

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