レポート第1回:中国の会計事情(1)~中国駐在の公認会計士へのインタビュー~

2010/06/15

今回は、世界経済でも国際会計の舞台でも存在感を増す中国について取り上げます。中国では2007年から「新企業会計準則」が適用されています。

この「新企業会計準則」については中国が「IFRSと同等である」と主張する一方で、「中国にとって不利とされる部分は隠している」

「一部について不適当な運用がなされている」ということも言われています。

「実際の会計基準の適用状況はどうなのか?現場は混乱しているのか?」

そんな疑問を解決するために、今回は中国に駐在をされている公認会計士の方に最新の中国の会計事情について電話でお話を伺いました。

中国駐在の公認会計士へのインタビュー

中国では2007年から「新企業会計準則」(新基準)が適用されていますが、その内容は?

■中国は、新基準は「IFRSと同等である」と主張していますが、「新企業会計準則」について、IASBはいまだIFRSとの同等性評価の結論を発表していません。従って人により解釈に幅があり、同等と考えている人から15%ほど異なっていると考える人までさまざまです。ただ、90%くらいの部分が一致しているというのが一般的な見方のように思います。
10%の違いは何か、ということになるのですが、例えば、中国にとって不利な部分は一致していない箇所があるように思います。

筆者も執筆にあたり、「新企業会計基準」を一読しましたが、やはり一部にIFRSと一致していない箇所が見受けられました。 例えば公正価値測定の適用については、自国の市場経済の発達が不十分という理由で極めて限定的な適用がなされており、中国側はこれを「IFRSとの重要な相違にあたらない」と主張しています。しかし、IFRSが経営者の恣意性の排除の観点から、公正価値測定を選好していることからすると、これは明らかにIFRSの趣旨に反する主張です。

中国に進出している日本企業の会計基準の適用状況は?

■まず、中国では地域によって会計基準の適用ルールが異なるということがひとつのポイントになります。以前より深センの大中型の日系企業では新基準が強制適用となっており、2011年から上海の大中型の日系企業も強制適用となりますが、その他の地域では税務上のメリット等から新基準を適用している会社が少数あるといった形だと思います。

また、いわゆる小規模な企業に関してはほとんどの企業が旧基準を継続して適用していることが多いです。

一般論として、日本企業が中国に進出した際によく起こる会計上の問題点は?

■どちらかというと中国は、税務のルールが複雑ですので、税務の方が問題となることが多いと思います。そういった意味では、税務のルールの解釈から発生する未払法人税や繰延税金資産の計上の可否は会計上も問題となることが多いですね。
また、三項基金(特定の企業について要求される三種類の法定積立金のこと)や土地使用権の会計処理については、古くて、しかしなくならない論点です。

新企業会計準則の適用に伴い、また今後IFRSへの完全移行も考えられる中、会社での対応は?

■特に大規模会社の経理・財務の方はかなり神経をとがらせているように思います。そのような会社では、IFRSを中国の新企業会計準則と同等とした前提で勉強会の開催、セミナーへの参加といった対応をとっていることが多いですね。また、現段階では旧基準を適用している企業でも、今後IFRSへの完全移行も視野に入れて、新基準への変更を図る企業が増えてきているように思います。
中国国内に多数の子会社を有している企業の場合には、中国国内でも地域によって会計基準が異なるため、グループ内で適用する会計基準が統一されていないことも多いです。今後は企業グループとしての会計基準の適用のルールを統一していく必要も出てくるように思います。

IFRSの適用にあたっては、会計基準について企業グループとしての解釈・判断を統一する必要がありますから、経理部・財務部だけでなく、経営者も含めた対応が必須です。

会計監査の現場でも何か影響は出始めているのでしょうか?

■すべての企業に対して新基準が強制適用されているわけではないので、まだ大きな影響は出ていませんが、今後新基準の適用が拡大するにつれて、変更する会計処理に加え開示項目も増えますので、監査報酬、監査時間とも増加するものと思われます。

ちまたにはたくさんのIFRSに関する情報が氾濫しており、幾分センセーショナルな報道も多くなっています。しかしながら、今回のインタビューからも分かるように、まったく新しい仕組みや概念が必要となるわけではありません。

ただし、「新企業会計準則」とIFRSには少なからず差異が存在することは事実であり、その差異を的確に把握し、現場で対応できるようにするためには組織的な体制作りが必要となります。

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