レポート倒産集計 2021年 9月報

2021/10/08

倒産件数は512件、2000年以降9月として最少
負債総額は914億2500万円、2カ月連続の前年同月比増加

倒産件数

512件

前年同月比

▲15.0%

前年同月

602件

負債総額

914億2500万円

前年同月比

+34.5%

前年同月

679億9600万円

主要ポイント

  • ■倒産件数は512件(前年同月比15.0%減)と、2000年以降9月として最少
  • ■負債総額は914億2500万円(前年同月比34.5%増)と、件数自体は引き続き減少傾向にあるものの、負債1億円以上の倒産が増加したことで、2カ月連続の増加
  • ■負債額最大の倒産は、(株)デジポケ(東京都、破産)の約101億円
  • ■業種別にみると、7業種中6業種で前年同月を下回った。建設業(94件、前年同月比10.5%減)など3業種は4カ月連続の2ケタ減。一方、運輸・通信業(23件、前年同月比109.1%増)は、貨物運送業などの増加を受け唯一前年同月を上回った
  • ■主因別にみると、「不況型倒産」の合計は389件(前年同月比17.2%減)となり、4カ月連続で前年同月を下回った。構成比は76.0%(同2.1ポイント減)を占める
  • ■負債規模別にみると、負債5000万円未満の倒産は326件(前年同月比22.0%減)、構成比は63.7%を占める
  • ■地域別にみると、9地域中6地域で前年同月を下回った。なかでも東北(12件、前年同月比42.9%減)は15カ月連続の減少。関東(183件、同22.5%減)は、4カ月連続での2ケタ減と、引き続き減少基調となっている。また、北陸(8件、同46.7%減)は、2000年以降2番目の低水準


  • ■件数・負債総額

    倒産件数は2000年以降9月の最少を更新

    倒産件数は512件(前年同月比15.0%減)と、4カ月連続で前年同月を下回った。
    負債総額は914億2500万円(同34.5%増)と、件数自体は引き続き減少傾向にあるものの、負債1億円以上の倒産が増加したことで、2カ月連続の増加となった。

    ■業種別

    運輸・通信業を除く6業種で前年同月比減少

    業種別にみると、7業種中6業種で前年同月を下回った。建設業(94件、前年同月比10.5%減)、製造業(61件、同11.6%減)、小売業(99件、同34.9%減)は4カ月連続の2ケタ減。建設業は職別工事、総合工事、設備工事の全てで減少。また、小売業は9月としては20年ぶりに100件を下回る低水準となり、なかでも飲食店(48件)は30.4%減の大幅減となった。
    一方、運輸・通信業(23件、前年同月比109.1%増)は、貨物運送業などの増加を受け唯一前年同月を上回った。

    ■主因別

    「不況型倒産」は389件、構成比は76.0%

    主因別にみると、「不況型倒産」の合計は389件(前年同月比17.2%減)となり、4カ月連続で前年同月を下回った。構成比は76.0%(同2.1ポイント減)を占めた。

    ※倒産主因のうち、販売不振、輸出不振、売掛金回収難、不良債権の累積、業界不振を「不況型倒産」として集計

    ■規模別

    負債5000万円未満の構成比63.7%

    負債規模別にみると、負債5000万円未満の倒産は326件(前年同月比22.0%減)、構成比は63.7%を占めた。このうち業種別では、6カ月ぶりに100件を超えたサービス業(102件)が構成比31.3%(同3.8ポイント増)を占め最多、小売業(75件)が同23.0%(同4.3ポイント減)で続く。
    資本金規模別では、資本金1000万円未満(個人事業主含む)の倒産が332件(前年同月比20.4%減)、構成比は64.8%を占めた。

    ■地域別

    東北、関東など6地域で前年同月比減少

    地域別にみると、9地域中6地域で前年同月を下回った。なかでも東北(12件、前年同月比42.9%減)は15カ月連続の減少で、2009年3月~10年8月(18ヵ月)に次ぐ連続期間。関東(183件、同22.5%減)は、群馬県を除く1都5県で減少。4カ月連続での2ケタ減と、引き続き減少基調となっている。また、北陸(8件、同46.7%減)は、2000年以降2番目の低水準。
    一方、北海道(17件、前年同月比30.8%増)、九州(43件、同10.3%増)の2地域は前年同月を上回った。

    ■態様別

    「破産」は468件、構成比91.4%

    態様別にみると、破産は468件(構成比91.4%)、特別清算は30件(同5.9%)となった。
    民事再生法は14件で、このうち10件を個人事業主が占めた。

    ■景気動向指数(景気DI)

    景気DIは39.9、上向きに転じる

    2021年9月の景気DIは前月比0.7ポイント増の39.9となり、2カ月ぶりに改善した。
    9月の国内景気は、ワクチン接種の普及とともに新規感染者数が減少傾向で推移したほか、日経平均株価が31年ぶりの高値を付けたことも押し上げ要因となった。半導体関連の好調や、郊外での住宅購入や都市部での貸家業も堅調に推移した。輸出増加に加え、精密機械や医療機械などの生産・出荷量DIが上向き設備稼働率も過去最高を記録した。他方で、半導体不足などによる自動車減産の影響が関連業種へと幅広く波及した。さらに金属や木材などの材料不足や価格高騰が企業活動を抑制する要因となった。 国内景気は、新規感染者数の減少や株価上昇などが好材料となり、再び上向きに転じた。

    今後は緩やかな回復傾向が見込まれる

    今後の国内景気は、10月の緊急事態宣言等の解除やワクチン接種の普及とともに経済活動が徐々に正常化へと向かうとみられる。また、海外経済の回復にともなう輸出や設備投資の増加傾向に加え、5Gや自宅内消費の拡大、自動車の挽回生産、ESG投資を含めSDGsへの対応も押し上げ要因と見込まれる。さらに新政権の大規模な経済対策は国内景気の下支え要因となろう。他方、新型コロナウイルス変異株の動向は引き続き懸念材料で、感染拡大防止と経済活動の活発化のバランスが一段と重要になる。また、半導体不足や仕入価格の上昇、中東情勢など地政学的リスク、米国の量的緩和縮小なども注視する必要がある。
    今後は、感染拡大による下振れリスクを抱えつつも、緩やかに回復していくとみられる。

    今後の見通し

    ■倒産は55年ぶり低水準 負債総額も減少の一方、大型倒産が複数発生

    2021年度(21年4-9月)の倒産件数は前年同期比25.7%減となる2938件となり、2000年度以降で最少、1999年度以前と比較しても55年ぶりの低水準を記録した。持続化給付金など政府による事実上の資本注入策に加え、各金融機関による無利子・無担保融資、既存融資のモラトリアム対応など、考えうる金融支援を総動員した万全の資金繰り対策が行われたことで、業種を問わず経営不振に陥った多くの中小零細企業が「手元資金の枯渇」という最悪の事態を回避し続けていることも、法的整理としての倒産発生を大きく抑え込んだ要因となった。
    一方で、負債総額は前年同期から3.8%減少となる5784億7000万円となり、倒産に比べて減少率は小幅に留まった。倒産が減少するなかでも、負債10億円以上の中大型倒産が複数発生。事業再生による旧会社の清算などで負債が大型化した側面もあるものの、コイケ(5月民事再生)やサン宝石(8月同)など、従前から過大な負債を抱えた中でコロナ禍の急激な業績悪化が直撃し、資金繰りが限界に達した業界中堅企業の倒産が発生している。

    ■宿泊業の倒産、足元で反転増の傾向 「秋の行楽シーズン」の成否が先行き占う

    コロナショックで最も大きな影響を受けたのが、対個人サービスである宿泊業と飲食店だ。緊急事態宣言をはじめとした人流抑制策の影響を特に大きく受けた2業種だが、21年度上半期の倒産は宿泊業で前年同期比47.9%減の38件、飲食店は同24.0%減の298件と、ともに前年同期を下回った。ただ、飲食店では6カ月中5カ月で前年比減となった一方、宿泊業では7-8月で増加、9月も前年同月に並ぶなど、足元の倒産動向には異なる動きがみられる。
    事業意欲を図るバロメーターの一つとなる借入金動向も、飲食店と宿泊業では近時の傾向がK字に分かれる。日本銀行の統計では、中小企業が多く利用する信用金庫の貸付残高のうち、21年4-6月期の宿泊業向けは20年4月以降、前年同期比約1割増で推移した3月までから一転、最も小さい2%程度の伸びにとどまった。2ケタ増となお高い伸びが続く飲食店に比べると大幅な低下がみられる。宿泊業は協力金などが飲食店に比べると比較的少なく、そのため当初は売上高急減による固定費補填への緊急対応として長短借入金に頼らざるを得ないケースは多かった。ただ、結果的に宿泊業の有利子負債は月商の約26倍と膨れ上がっており、金融機関の融資や支援姿勢はコロナ禍で軟化しているとはいえ、借入限度を既に使い切り「借りたくても借りることができない」旅館やホテルが増えている可能性を示唆している。
    緊急事態宣言が全国的に解除され、Go To 事業の再開なども要望されるなか、観光産業は抑制された需要の反動増=ペントアップ(繰越需要)に望みをかける。一方、宿泊業では傷口が浅いうちに事業を畳む休廃業などは既に前年を超えており、コロナ禍前の売り上げ水準に回復するか懐疑的な見方をする事業者も多い。そのため、既に金融支援を限度枠まで使い切った宿泊業では、年内最後の繁忙期である「秋の行楽シーズン」で売り上げ回復が期待に届かなければ、先行きへのあきらめ、資金調達が新たに受けられない息切れの倒産が増加する可能性がある。

    ■各種救済措置で経営危機の表面化は先送りも、「コロナ支援」からの卒業が今後の課題

    全国的な倒産傾向としては、微細な増減はあるものの今後も急激な増加はないだろう。4日に発足した岸田政権が、10月末に投開票が行われる衆議院総選挙の行方によるものの、金融支援を中心とした企業支援から経営不振企業に退場を促す内容へと大きく舵を切る事態は短期的に考えづらく、2021年後半にかけても倒産動向は比較的落ち着いた推移をみせるとみられる。
    一方で、強力な金融支援が生み出した企業の過剰債務問題といった副作用を、資金面だけでなく本業を含めてどう立て直すかが求められる局面に来ている。金融庁は2021事務年度の金融行政方針において、地域金融機関がコロナ禍で傷んだ中小企業の経営改善や事業再生支援に向けた環境整備を明記した。政府も、中小企業でも円滑に私的整理が行えるガイドライン策定を目指すなど、コロナ禍の中小企業支援は抜本的再生へと主眼が移りつつある。ただ、過去の金融円滑化法で借入金などのリスケを実行した企業のうち、実際に経営改善計画を策定できた企業は3割ほどとされ、今回も自力で経営再建を果たす企業がどれ程に上るかは未知数だ。
    足元では半導体や食品など各種原材料、賃金など労務費が上昇する一方、国内消費の停滞で販売価格に転嫁できない状況が長く続いており、特にサービス業や小売業では売り上げの維持や利益確保で精一杯のケースが少なくない。手厚い中小企業支援が倒産を抑制し続ける一方で、将来的な事業再建への道筋が見込めないまま、コロナ支援に依存し続ける経営不振企業が増加する懸念は残ったままであり、これら企業の倒産リスクは依然として燻る状態が続く。

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