ビッグデータ




企業エコシステム(生態系)での群評価
〜企業間の関係性の強さを測る独自アルゴリズム〜

ここがポイント!

  • ポイント1

    企業を個社ではなく、企業間取引ネットワークの中である種のまとまりをもつ企業群(エコシステム)として定量的に取り出す方法を開発した。

  • ポイント2

    この方法を日本企業に適用することで、企業群の規模が大きく、事業構造の変化にともないエコシステム内の構成を変えてゆく総合商社の姿が垣間見える。

  • ポイント3

    さらに、エコシステムに所属する企業間の取引継続率と、企業信用調査報告書内のテキストデータを解析(センチメント分析)することで、エコシステムの安定性と、景況感の雰囲気を表現することができる。

  • ポイント4

    取引継続率の高く、業績が伸びているSUBARUの場合、センチメント分析により、エコシステム内企業の景況感の雰囲気も大幅に増加していることが判明した。

1. サプライ(部品供給)ではなくエコシステム(生態系)を見る

サプライチェーンは狭義には部品が供給されるネットワークと考えられている。例えば、トヨタ自動車のサプライチェーンという意味合いには、トヨタ自動車の本社に入っている清掃会社や警備会社は含まれないし、社員食堂の委託を受ける会社もコピー機や事務用品などの消耗品を保守・納品する会社も含まれないと考えられるのが一般的な印象だろう。

しかし、ビジネスは規模が影響力を持つもので、大きな取引を行う企業にはより多くの取引を求めて大小様々な企業が集まって相互に取引を行い、その結果として複雑なネットワークを形成している。「企業はたくさんの会社と取引しながら自らを成長させていく(日経ビジネス10/1号P24)」と考えられるが、その「たくさんの」取引ネットワークを捉える方法は一般的ではなかった。そこで、帝国データバンクの企業ビッグデータを用いて、規模の大きな影響力を持つ企業を核としてある種のまとまりをみせている企業群を定量的に取り出して、ビジネスの生態系をなしているひとつの単位として取り出したのが「企業エコシステム(生態系)」である。

この生態系として企業活動を捉えるアイデアは、「Business ecosystem」としてJames Mooreが1993年に提唱している。ムーアは競争戦略の中で企業が戦略を拡張するアプローチの中で「ひとつの企業を単一産業の構成員としてではなく、多様な産業にまたがるひとつの企業生態系の一部として捉えることを示唆しておきたい1」としている。企業が技術革新や新しい戦略設定をした際に多種多様な企業との新たなパートナーシップを築いていくプロセスの中で多様な取引を実施することから、冒頭に示したようなサプライチェーンという概念では説明できない関係が構築されている。そこで、企業戦略や産業構造、さらには大企業が影響力を持つ地域経済を把握する概念として企業エコシステムを用いていきたいと考えている。

取引関係を通じて企業活動を理解する取り組みはこれまで様々なアプローチが取られてきた。代表的なもののひとつが、取引関係の中核をなす企業、コネクターハブ企業である。2013年に放送されたNHKスペシャル「震災ビッグデータU」で登場後、翌2014年の中小企業白書や2015年から開始した地方創生の情報支援ツール「地域経済分析システム(RESAS)」で採用され、企業を選ぶ際の単位として使われるようになり、2017年には経済産業省が選ぶ地域未来牽引企業のデータ抽出部門の検索単位としても採用されている。

しかし、コネクターハブ企業にみられる取引の中核性は、ネットワークの核をなす企業を全体の中から浮かび上がらせるために使われてきており、エコシステムで掴もうとしている企業群、生態系としての姿は捉えることはできなかった。

企業エコシステムは、ふたつの視点から企業活動を捉えようとしている。ひとつは、規模の大きな企業がその事業領域をどのように変化させているかを、取引関係の変化を通じて捉える方法である。もうひとつは、エコシステムに所属している地域の中小企業の視点から見たときに、取引を通じて関係している外部経済をポートフォリオとして捉える方法として、である。

特に中小企業にとっては、大企業やその子会社、大企業に連なる中堅企業との取引は安定的でかつ規模が期待できる。さらには大企業との長期の取引を獲得することは、中小企業の信用力を強化することもあり、比較的望ましいものとして認識されてきた。銀行から融資を受ける際など、取引先に大企業との長期的な取引があるもしくはその契約が想定されている場合、融資の実行に有利に働くと聞く。また、新規の取引を行う際にも、例えば「トヨタ自動車との取引がある」ことは取引を成立させることにプラスに働くことが多いと考えられる。ビジネスは企業単体で行えるものではなく、それぞれの専門性を活かして複雑で高度な商品やサービスを提供していくものであるため、高度に発達した経済の場合、どうしてもネットワーク化され、そのネットワーク内での評価は「誰と繋がっているか」という意味で、人間関係における評価とそれほど違いがない。つまり、誰もが知っている状態にはない中小企業にとっての信用力の一部は、取引先との関係において評価されるものであるともいえる。

この取引関係はどのように形成され、変化していくのか、そして大企業の影響力はどの程度強いのであろうか。こういった問題意識を解くために、これまで帝国データバンクが蓄積してきた企業間取引データを用いて構築した企業ビッグデータのデータセットから、特定の大企業から発する取引の流れが収束するまで計算して取り出した一塊をその企業のエコシステムとした。

生成方法は、取引で接続された企業ビッグデータから、特定の企業を頂点としたエコシステムを機械的に取り出している。取引をそのまま取り出すとピラミッド状に広がっていき、最終的にはすべての企業がつながっていく。そのため、頂点企業を中心に一塊となるように、Tier1の抽出は頂点企業との相互取引がある、頂点企業との取引高推定値が売上高に占めるシェアが高いなどの条件で制御している。なお、データは時系列で保有しており、地域別、業種別、企業横断的にも集計が可能なデータセットとなっている。ただし、大きなデータセットであるため、一部を取り出して見るよりも、クラウド環境に置いたデータを閲覧し継続的な変化の観察や議論の対象とすることが望ましいと考えている。



図表.1 企業ビッグデータから生成した企業エコシステムの概念図(帝国データバンク作成)


2. 商社が作る商流が日本経済の核

取引データを使って取引を接続させていくと、取引を集中させている企業が存在している。今回生成した企業エコシステムでも、上位に登場するのは、三井物産を筆頭とする総合商社5社が並ぶ。ともに創業年も古く、明治維新当時から日本経済のけん引役であったと言えるが、貿易を中心とした取引から、仲介手数料、金融手数料など、まさに取引の仲介役を担う中で、日本経済の拡大とともにその規模を拡大させてきている。さらに商社の特徴といえば、いい意味で本業がない状態であり、事業構造自体が時代に沿って変革してくるところ、新しい時代、ビジネスに適応する多様性にその強みがある。そして、取引データを通じてみる商社の姿は、まさに日本経済の「生態系」をなしているといえる。商流とはまさに価値を生み出すバリューチェーンを指しており、より多くの価値を商社が築いたネットワークを“通過”することでビジネスが拡大していくという事業構造を形成するため、商社の強さはこの生態系の多様性にあるといってもいい。

商社のエコシステムは図表2に示すように、上位企業の変遷をみると2012年から2017年に掛けては、エコシステム自体は縮小傾向にある。このことは、商社が軸足を置くビジネスを少しずつスライドさせていることが垣間見られる。同じ期間の中で取引数は増加傾向にあるため、取引の核が徐々に変化していっているという見方ができる。



図表.2 日経ビジネス編集部が選んだ日本の主要110社のエコシステム上位企業(帝国データバンク作成)




エコシステム自体は、大手企業の評価をするものではなく、どちらかいうと事業ポートフォリオを描く中で、必要となる取引先がどういった構成になってきているのかという見方である。日経ビジネスでエコシステムの変化で事例として取り上げられた電機メーカー3社(パナソニック、シャープ、ソニー)のように、事業構造の変化がエコシステムの変化に繋がっていることから、中小企業経営者から見ると、取引先(もしくはその最終顧客)がどのエコシステムなのかを知っておくことで、自社の取引先ポートフォリオを定量的に捉えることが可能となる。

このことは、これまで定性的な観察や有識者や事業経験に基づいて分析されてきた「外部環境分析」の定量化が可能となってきたことを示唆している。

外部環境分析は、一般にPEST分析2や5Forces分析3を用いることが多いが、分析された結果は自社ではコントロールしづらい産業内の条件(脅威)を整理することに使われる。中小企業経営における問題点としては、例えばPEST分析においては、それぞれの課題のサイズが大きすぎて自社の脅威と直接的な繋がりを見出しにくいことにある。法規制に影響を受けやすい業種(例えば派遣業や運送業など)は、派遣業法の変更や道路運送法の改正などが行われることで、対応業種や就業時間の変更などが必要となる。しかし、こういった条件変更は毎年起きることではないため、中期経営計画の一部に分析を盛り込む程度であるのが現状だろう。通常のビジネスにおいて直接的な機会と脅威は主要な取引先からくるものであり、自動車や電機などの企業数が多いものづくり産業においては、「取引先の取引先」も含めたネットワークが中小企業にとっての「外部環境」であると考えられる。

この外部環境を取引データから独自に開発したアルゴリズムをもって生成したものが企業エコシステムである。

3. 取引継続率とセンチメント:エコシステムを外部環境として評価する定量指標

エコシステムを観察していく中で重要になってくる指標のひとつが「取引継続率4」である。取引コストの観点から考えても、安定的な取引を数多く持つ方がビジネスにおいては有利である。営業活動において新規取引の重要性を強調する背景には、必ず一定数の取引が消失することが経験的にわかっているからで、売上高をアップさせるためには、消失を上回る新規取引が必要となるためである。その点からいっても、自動車メーカーの取引継続率の高さはエコシステム内の企業にとって安定的な経営を行える大きな要素となっていることが示唆される。取引継続率が長いほど新たな取引を獲得するコストが不要になるため、その分、製造コストや技術開発コストを考慮することができる。大手企業と取引をしたい中小企業とすれば、できるだけ取引継続率の高い企業との取引を獲得するように活動をすることで、長期的な安定をもたらすことができる可能性がある。こういったデータを用いた意思決定は、「来たボールを打つ」という一打席の選択ではなく、「少しでも率のよいボールを打つ」というシーズンを通じての勝利数への貢献という面で使われるもので、目線を上げて事業環境を俯瞰する中で使われるものである。

取引継続率が高いエコシステムで、頂点企業の業績が伸びている場合は、どうなるのであろうか。2011年度から2017年度に掛けて単体の売上高や製造台数がほぼ2倍に伸びたSUBARUの場合、以下の動画に示すようにエコシステムの階層も深くなっている。生産台数が増加するということは、外部調達の量も増加すると考えるのが自然で、増加した部品を各サプライヤーが生産するためには、自社の製造設備を増強するか、他社から調達するかという対策が必要とされる。SUBARUの増収を機会であると考え、自社の投資を行う企業もいたと考えられるが、投資よりも外部調達の選択を行った企業も相応に存在することは想像に難くない。結果として、エコシステムは階層を深くしていったと考えられる。


企業エコシステム内を流れる取引高と階層の深さ5(SUBARUの場合)(帝国データバンク作成)


もうひとつはエコシステム内にいる企業が現在の事業環境をどのように捉えているかという雰囲気(センチメント)である。帝国データバンクのもつ企業信用調査報告書の定性情報(最新期の業績、最近の動向と見通し欄)をテキストマイニングした結果(センチメント分析6)、景気の良さを示すポジティブな単語群の出現数により算出したスコアが高い企業群の割合を出すことで、エコシステム内がいい雰囲気なのかそうではないのかを定量化した。

結果、SUBARUのエコシステム内にいる企業でポジティブなスコアが高い企業群が2012年の38.8%から2018年には57.8%へと大幅に増加していることが観察された。

このことは、自社のポートフォリオにあるエコシステムが5つあった場合、それぞれの取引継続率やセンチメントを外部環境分析の指標として設定し、長期的に観察していくことで、どういった取引を取っていくことが経営として長期的に望ましいかという俯瞰的な視点を持つことができることを示唆している。

4. まとめ

本稿は企業を単体ではなくエコシステムという有機体として捉えようという研究成果の一端を示したものである。こういった研究は、2011年から続いている東京工業大学高安美佐子研究室をはじめ、複数の共同研究から着想や様々な実験的なプログラムによってもたらされている。また、新しい視点を得た中では、積極的でオープンな議論が重要となってくる。幸いにして、中小企業庁の審議会等においてもエコシステムという集計単位をもって議論し、新たな企業や産業の捉え方という評価をいただいた。

ビッグデータは、データを構造化し、意味を取り出すためのアルゴリズムを開発し、指標として取り出すことで、これまでと違う評価基準を作ることで、意思決定を高度に、そして容易にしていくための素材であると考えている。生態系という群での評価をすることで企業間の関係性に着目し、その中での自社のふるまいをどうすべきかという意志決定に役立てていただきたい。


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1.ジェームズ・F・ムーア. 企業"生態系"4つの発展段階. DIAMOND ハーバード・ビジネス. 1993年9月.
2.外部要因分析方法のひとつ。PESTは政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)の4つの外部環境要因の頭文字をとっている。これら4つの要因を把握することをPEST分析という。
3.外部要因分析方法のひとつ。特に分析対象となる企業が属する業界の状況を把握することをいう。把握にあたって押さえるべき5つのポイントとして「@業界内の敵対関係」、「A新規参入の脅威」、「B代替品の脅威」、「C供給者の交渉力」、「D顧客の交渉力」があることから5Forcesと呼ばれている。
4.ある年に確認された取引が翌年にも継続している確率。
5.中小企業政策審議会小規模企業基本政策小委員会(第11回平成30年6月29日) 配布資料3.企業ビッグデータから構築した企業エコシステム
6.計算方法は、高安美佐子、東京工業大学、平成27年度経済産業省「ビッグデータとその解析技術を活用した新指標の開発事業報告書」による手法を活用した。

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株式会社帝国データバンク プロダクトデザイン部 プロダクトデザイン課
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