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2011/03/01知的資産経営のススメ第14回:イノベーションと知的資産経営

1.中小企業のイノベーション

持続的な成長を目指している中小企業は、経営環境が回復することを待っているだけではなく、自社を変えていくためにさまざまなイノベーションを開始しています。
このイノベーションという言葉、しばしば「技術革新」と訳されることがありますが、本来は技術開発などだけでなく、新しい販売方法や組織形態の導入など企業経営に関係するさまざまな「革新」のことを言います。
イノベーションという言葉を初めて用いたとされる経済学者のシュンペーターは、イノベーションを5つに分類しており、ものづくりのためだけでなく、さまざまな局面で生み出されることが分かります(図表1) 。

【図表1:イノベーションの5つのパターン】

  1. ・新しい生産物または生産物の新しい品質の創出と実現
  2. ・新しい生産方法の導入
  3. ・工業(産業)の新しい組織の創出
  4. ・新しい販売市場の開拓
  5. ・新しい買い付け先の開拓

つまり、イノベーションとは、日々の創意工夫など小さな変革まで含めると、どんな企業でも実践することができる「新たな取組み」のことであると言えるでしょう。
また、イノベーションを「技術」と「マーケット」の視点で類型化したのが、図表2です。特に経営資源の限られる中小企業において、一般的に取り組みやすいのは、左下部分の「通常的革新」です。研究開発型ベンチャー企業の創業期などを除き、永続的発展を目指す多くの中小企業では、日々の活動における改善活動などの通常的革新こそが、多くの競争力の源泉を生み出しています。

図表2:イノベーションの4類型

【図表2:イノベーションの4類型】

(出典:一橋大学イノベーション研究センター編『イノベーションマネジメント入門』を参考に一部改)

ただ一方で、通常的革新のみで満足してしまうと、組織としての成功体験が独創性を阻害するといった、いわゆる「イノベーションのジレンマ」という状態に陥り、組織の成長に支障をきたすことも事実です。中小企業のイノベーションにとって重要なのは、新しいビジネスチャンスを伺うべく絶えず環境変化を捉えながら、知的資産をはじめとした自社の強みを都度見つめ直し、不断の革新を続けるという姿勢を持ち続けることです。

2.ものづくり企業の底力

景気はまだ踊り場局面を脱していない状態にある上、大手メーカーの相次ぐ海外移転などに伴う空洞化問題などから、国内の中小製造業は総じて厳しい状況下に置かれています。ただ、企業によっては、さまざまな取組みにより頑張っている会社も少なくありません。
経済産業省では、高度なものづくり技術によりイノベーションを創出し、日本の国際競争力を支える経済活力の源泉として、2006年より「元気なモノ作り中小企業300社」を毎年選定しています。選ばれた企業に実施した調査(2008年実施)では、回答企業が「設備」(8.0%)など物的資産よりも「情報」や「人材」、「取引先や同業企業」、「研究機関」などさまざまな知的資産を重視して、技術・製品開発に取り組んだという結果が出ています(図表3)。

図表3:技術・製品開発において最もポイントになった点

【図表3:技術・製品開発において最もポイントになった点】

(出典:帝国データバンク「元気なモノ作り中小企業300社アンケート」(2008))

また、日本の代表的な産業の1つである自動車産業においても、見えざる資産の重要性は注目されています。ものづくり研究の権威である東京大学の藤本隆宏教授は、国内自動車産業の強みとして「組織能力」という他社が容易に真似できない真の強みがあると述べています(図表4)。国際競争の激しい産業の中で企業が収益力を生み出すためには、価格やブランド、納期など顧客が直接評価する“表の競争力”だけでなく、生産性や品質、生産・開発リードタイムなど外部からは直接見えないものの現場の実力を現す“裏の競争力”、さらにはものづくりや人づくり、その組織の風土など、他社が簡単に真似できない「組織能力」が存在し、競争優位を確保してきたと言えます。例えばトヨタ自動車の場合、素晴しい製品を次々と市場に投入し、高いブランド力を維持していますが、その土台にはジャストインタイム方式をはじめとするトヨタ生産方式や、社員で共有すべき価値観および手法をまとめた「トヨタウェイ」の徹底などがものづくり企業の“底力”として根付いているからこそ、不断のイノベーションが実現できるのでしょう。

図表4:モノ作り企業の競争力の多層構造

【図表4:モノ作り企業の競争力の多層構造】

(出典:藤本隆宏『ものづくり経営学』を一部改)

3.オープン・イノベーションと知的資産経営

昨今、携帯電話やデジタル放送などといった最新鋭の技術やサービスが、日本市場で独自の進化を遂げてしまうという「日本企業のガラパゴス化」についてよく耳にします。また、中小企業に目を転じてみても、自社開発の技術・ノウハウの保護のみを重視してしまう余り、特許などで権利化してしまったその技術が広がらず、かえってチャンスを逃してしまうことも少なくありません。イノベーションにおいても、国や個別企業の権利を保護する観点は非常に重要ですが、過剰な囲い込みによる自前主義は、ときとして「木を見て森を見ず」といった展開になり、市場に取り残されることにつながってしまっています。
このようなことから近年のイノベーションは、研究開発から製品化までを個別企業の中で完結させることは少なくなっており、必要な経営資源の補完と利用可能性拡大の両面から、外部の知識・技術を活用しつつ研究開発や事業化を行うといった「オープン・イノベーション」と呼ばれる形態を取ることが主流になってきています。例えば、徐々に活発化しつつある特許などのライセンス供与の問題については、従来のように、「知的財産を発明し、保護する」といった企業の一部門が担当していた狭義の知財戦略に留まらず、企業全体の経営戦略、ひいては産業全体の戦略にまで発展してきています。
また、「外部の知識・技術の活用」を知的資産経営の観点で見てみると、まさに関係資産をいかに捉え、活用していくかといった面が重要になります。多くの優良企業の経営者がそうであるように、顧客からの声に耳を傾け、製品やサービスの開発に活かしたり、仕入先、協力先のノウハウ・技術等をうまく提供してもらい、自社の経営に活かしたりといった、「外」を上手く使うといった観点も、持続的成長には不可欠です。

<最後に>われわれ調査会社が企業を訪問して実感するのは、どんな企業でもよく探すと“キラリと光る”知的資産を持っているということです。このような非常に魅力的な知的資産を“隠れた宝”にするのではなく、きちんと活用し成果につなげていくために、ぜひ、“見える化”・“魅せる化”による知的資産経営を実践してください。

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