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2011/01/24知的資産経営のススメ第9回:スパイラルアップで未来をひらく

1.適切な評価で会社を強くする

「うちは特許権と商標権があるから大丈夫」という方、「うちは特許を持っていないから弱い」という方、その認識は正しいでしょうか。
特許権や商標権等の知的財産権のメリットは、第8回にて説明しました。しかし、知的財産権には、“権利範囲”があります。例えば、(1)取得した特許権の権利範囲が狭く自社製品をカバーしていないケースがあります。また、商標権でも、(2)指定商品や指定役務が一部の事業しかカバーしていないケースや、(3)文字とロゴの組合せで登録していた場合に文字だけやロゴだけには権利行使が難しいケースもあります。
また、事業は刻々と変化し広がります。例えば主力製品が衰退して新製品の売り上げが伸びる、利益ポイントが主力サービスよりアフターサービスに移行する、取り扱い商品が変化、拡大、縮小するといったことがあります。しかし、知的財産権は、過去に権利を取得した時点から変化していません。ですから、商品やサービスが知らぬ間に知的財産権による保護から外れたり無駄になることがあります(図表1)。

図表1:権利範囲と商品・サービスの変化

【図表1:権利範囲と商品・サービスの変化】

その一方で、特許権等を持っていなくても、他社に真似できないノウハウ等を持っていれば、他社参入を防止する参入障壁として高い効果を有し、強い会社となり得ます。
知的資産による参入障壁を適切に評価し、会社の強さを明確に把握しましょう。

2.知的資産の有効性と強さを評価

知的資産の参入障壁としての機能性を評価することは、そのまま事業の安定性や力強さの評価に繋がります。参入障壁としての機能が高ければ高いほど、独自性を維持することができ、模倣リスクや他社追随による価格低下リスクを軽減できるのです。このため、正しい評価を行うことが重要です。

3.EBA法による評価

EBA法※(参入障壁評価法)は、知的資産による参入障壁の高さを評価する方法です。主に(1)技術面と(2)ブランド面から評価を行います。
ここで、現在売れておらず今後も売れる見込みのない商品・サービスは、高い参入障壁を築いたところで事業上の価値があまりありません。ですから、売上高の高いもの、利益率の高いもの、将来の成長が見込めるものに集中して評価します。この集中がEBA法の1つのポイントになります(強みの分類整理と知的財産権の抽出は、第7〜8回をご参照ください)。
また、特許権や商標権といった明確な権利だけでなく、ノウハウや営業秘密といった外部から見えにくいものも評価対象とします。例えば、特許権を取得していなくても、他社が真似できないほどの高度な技術力などは、特許権以上に高い参入障壁として評価され得ます。こうして、実質的な参入障壁の高さ、つまり会社の強さを評価していきます。

※ EBA法(Method of Entry Barrier Assessment)弁理士西原広徳が開発した参入障壁の評価手法

4.技術面から評価する

技術面の評価には、(1)特許権、(2)実用新案権、(3)意匠権、(4)技術上の営業秘密、(5)ノウハウ、(6)技能等の項目を用います。
(1)特許権、(2)実用新案権、(3)意匠権であれば、保護範囲の広さと代替手段の可能性を考慮して評価します。代替手段の開発が困難であればあるほど高く評価します。
(4)技術上の営業秘密は、営業秘密としての保護レベルに加え、仮に情報漏洩した場合の模倣可能性も考慮します。情報漏洩時の模倣可能性が低いほど、堅牢ですから高く評価します。
(5)ノウハウや(6)技能については、習得が難しいものほど高い参入障壁として評価します。

図表2:参入障壁の技術面の評価要素と評価の例

【図表2:参入障壁の技術面の評価要素と評価の例】

第 7〜8回の塾の例で、(1)良いテキストと(2)高付加価値の採点の相乗効果が強みであったとします(図表2)。(2)高付加価値の採点が受講生との距離を近づけ、「要望」を収集する力になっています。そして、「要望」が企画部の(1)良いテキストの作成にフィードバックされています。しかし、企画部と採点部は分かれており、異なる人材で秘密情報も遮断されています。そうすると、一部問の秘密情報が漏洩しても他部門の秘密情報が漏洩しない限り、同じサービスの模倣は困難です。この場合、秘密情報として漏洩に対する強度が強く、高く評価できます。
こういった評価をもとに、技術面から見た参入障壁をグラフにします(図表3)。グラフで見える化することで、イメージ的に理解でき、商品やサービス毎の比較も容易になります。

図表3:技術面の参入障壁評価

【図表3:技術面の参入障壁評価】

5.ブランド面から評価する

ブランド面の評価には、(1)商標権、(2)商標の使用状況、(3)ブランドの顧客吸引力等の項目を用います。
(1)商標権は、重要な商品・サービスを網羅しているか、商標のバリエーションまで保護しているかといった観点で評価します。カバー率が高ければ高いほど評価が高くなります。
(2)商標の使用状況は、どのように商標を使用しているかにより評価します。フォントの統一、マスターデータの取り扱い等が厳密であるほど評価が上がります。
(3)ブランドの顧客吸引力は、そのブランドであるから顧客が買っている、ファンが多い、等の状況があれば、高く評価します。
こういった項目から、ブランドの顧客吸引力が強く、かつ商標権でのカバー率が高いほど参入障壁として高く評価します。ブランド面の評価が低いことは、他社商品が出れば機能や価格で比較され顧客が他社に流れやすいことや、ブランドを模倣される危険性等を示します。
このブランド面の評価も、グラフにして視覚化します(図表4)。こうしたグラフは、知的資産経営報告書に追加する、あるいは知財戦略報告書として開示するなど、ステークホルダーの魅了にも活用しましょう。

図表4:ブランド面の参入障壁評価

【図表4:ブランド面の参入障壁評価】

6.スパイラルアップで未来をひらく

上述のように評価すると、強化すべき点も明確になります。従って、評価の後に強化することで、知的資産による参入障壁を高めることができ、会社をより強くすることができます。
定期評価により重要部分の参入障壁を年々高め、これにより会社の強みをスパイラルアップさせて、会社の未来をひらきましょう。

弁理士 西原広徳 (帝国データバンク契約コンサルタント、西原国際特許事務所長)
専門分野:特許(電気・電子・機械・ソフトウェア・日用品)、意匠、商標および各種知財戦略策定支援
http://www.nishiharapat.jp

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