ビジネス講座

2011/01/17知的資産経営のススメ第8回:戦略的に企業を守る

1.知的財産権による保護活動の効果

知的財産権を取得することによる最も大きな効果は、他社による同様の商品・サービスの販売を防止する参入障壁を築けることです。
図表1のイノベーター理論※のS字カーブに示すように、新商品やサービスは、最初はなかなか売れず、認知されだすと急速に売れ、最終的には市場に飽和していきます。急速に売れるころに他社の参入(模倣品、類似品)が相次ぐために、価格競争が始まり利益が下降していきます。ですから、(1)参入障壁を築いて他社参入を遅らせれば、(2)利益を増大させることができます。これを可能にするのが知的財産権です。

図表1:普及のSカーブと参入障壁と利益関係

【図表1:普及のSカーブと参入障壁と利益関係】

※E.M.ロジャース「イノベーション普及学」(1990年)より加筆修正

2.知的財産権の種類と保護対象

知的財産権には、複数の種類(図表2)があります。それぞれ保護対象、メリット、デメリットが異なっていますから、権利ごとの特性をしっかり把握しておくことが大切です。
例えば、自社の意匠権を侵害する者に「特許権を侵害している」と言うような不正確な言葉使いは、誤解を招きます。注意しましょう。

図表2:知的財産権の種類

【図表2:知的財産権の種類】

3.強みを知的財産権で保護する

第7回で抽出した資格試験の塾の強みを例に、強みを知的財産権で保護する方法について説明します。バリューチェーンの段階別に抽出した強みについて、どのような権利で保護できるか個別検討していきます(図表3)。

図表3:バリューチェーン上の強みから知的財産権を抽出

【図表3:バリューチェーン上の強みから知的財産権を抽出】

  1. ■営業秘密
    受験生要望収集力等は、適切に秘密管理すれ ば、営業秘密として保護できます。
  2. ■特許
    自動化システムは、特許権で保護できます。 なお、社外秘とする営業秘密化も有効です。
  3. ■著作権
    販促用情報小冊子内のコンテンツは著作権に より保護されます。
  4. ■商標
    ブランド名は商標権により保護できます。また、高付加価値の採点サービスに名称を付ければ、これを商標権で保護できます。

このように検討すると、意外に知的財産権で保護できる強みが多いものです。なお、特許権、実用新案権、意匠権は、新しさが必要ですから、人に話したり製品化したりする前に出願しましょう。

4.戦略的な多面的保護

1つの強みについて、複数種類の権利で多面的に保護すると参入障壁の強度が高まります。

  1. ■特許権と意匠権によるダブル保護
    例えば自動車のタイヤの滑り止めパターンであれば、滑りにくいという機能面から捉えて特許権で保護し、タイヤの溝の形状をデザイン面から捉えて意匠権でも保護できます。
  2. ■特許権と営業秘密によるダブル保護
    特許権を取得する際に一部(例えば機械の設定数値など)をノウハウとして営業秘密にし、権利化部分と営業秘密部分に分けてそれぞれ保護することも有効です。
  3. ■意匠権と商標権によるダブル保護
    アパレルブランドの特徴的な生地柄のように、デザインを意匠権で保護し、かつ商標権でも保護できるケースもあります。
  4. ■トリプル保護や多重保護
    ケースによってトリプル保護も可能ですし、さらに複数の強みを多重的に権利化できます。戦略的に権利化し、強みの価値と会社の競争力を高めましょう。

5.積極的にブランド化する

抽出した強みを基に、商標登録とブランド化を積極的に行うと、会社は、より強く魅力的になります。
このとき、強みに基づくコンセプトを明確にすることをおすすめします。「ブランドとは、顧客に対する約束である」と言われています。その商標を付した商品やサービスにより、顧客に対して何を約束するのか、その約束するコンセプトを決めるのです。具体的には、利便性、快適性、安全性、信頼性、安心感、プレミアム感、品質への満足感などです。
コンセプトを明瞭にし、それを前面に打ち出した営業体制により、顧客へのメッセージが明確になり、会社や商品の魅力が増加します。そして、顧客がこのメッセージを商品・サービスから常に感じることが信頼に繋がり、ブランドとしての地位の向上に発展するのです。
ここで、最終商品を作っていなくてもブランド化できることに注意が必要です。得意先企業に納入する部品や付帯サービスをブランド化し、その先にいる最終消費者向けにアピールすることが有益なのです。
部品や付帯サービスがブランドとして最終消費者に認知されると、取引を求める企業が増え、納入会社の値下げ要求等を断れる強い地位を築けます。このようなアプローチは、(1)値決めのイニシアチブを取る、(2)下請けから脱却する、等のために有効と言えます。
順位付けの高い強みに集中して知的財産権を取得し、戦略的に会社を守りましょう。

弁理士 西原広徳 (帝国データバンク契約コンサルタント、西原国際特許事務所長)
専門分野:特許(電気・電子・機械・ソフトウェア・日用品)、意匠、商標および各種知財戦略策定支援
http://www.nishiharapat.jp

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