ビジネス講座

2010/10/01知的資産経営のススメ第3回:知的資産を“知る”

1.まずは自社を“知る”

企業にとって、周囲に特色をきちんと認識してもらった上で、しっかり関係を構築していくことが、持続的成長には不可欠なものと考えます。しかし、実際に企業に伺うと、特に目に見えにくい「知的資産」に関しては、経営者をはじめ社内の方が、当たり前すぎて特色と感じていないことが少なくありません。

図表1:ジョハリの窓

 【図表1:ジョハリの窓】

心理学の分野で、対人関係における気づきを示す「ジョハリの窓」 というモデルがあります(図表1参照)。企業が自分の実力を遺憾なく発揮するためには、自社と周囲が既に知っている「開放の窓」に当てはまるものだけに満足せず、他者が気づいていない「秘密の窓」の開放、他者は気づいているが自分自身が分かっていない「盲点の窓」の発掘、更には無限の可能性を秘めている「未知の窓」を「開放の窓」の領域に広げていくことにより、自社の真の姿を知ることが重要です。

2.自社を知る2つのアプローチ

知的資産は「目に見えにくい」経営資源です。つまり、自他とも既によく認識している、目に見えるものだけを抽出しても十分ではありません。一見、見過ごしてしまいがちな会社の真の実力を知ることが目的であり、次の2つのアプローチが重要になります。

(1)「強み」を深く掘り下げる
強みが何であるかを知るだけでなく、「何故」、「どうやって」生み出されているか、他とどこが違うかをできる限り深く掘り下げます。ただ実際には、「御社の売りは何ですか?」と聞いて、競争優位の源泉となるコアな部分まで即座に答えられる経営者はほとんどいません。そういった場合、図表2のように、見えているものから順に掘り下げていくことをお勧めします。
実はこの方法、私が新人調査員時代に先輩から教えてもらったヒアリング方法です。企業調査時に会社の特色を聞く際、まず「1番売れている製品、商品、サービスは何ですか?」と、認識している“答えやすい質問”から始め、次にその製品の特長(差別化ポイント)、更にはその背景にある独自性(模倣困難性、参入障壁など)を順に聞くと、経営者は体系立てて答えやすくなり、聞く側も会社の全体像や業界観を俯瞰しやすくなります。
会社の差別化ポイントは製品の性能、機能だけでなく、その売り方や供給体制、更には人材育成方法や会社の方針など、色々あるはずです。それを“Why?(何故、成功したのか?何故、強みとなったのか?)”の視点で分かりやすく掘り下げていくと、体系的な把握につながります。なお、専門家の中には、バリューチェーン(価値創造の流れ)やサプライチェーン(ものの流れ)、ビジネスモデルなどで強みを分析したりする場合もあります。

(2)「強み」を広く掘り起こす
会社の強みを網羅的かつ体系的に捉えるためには、幅広い視点から強みを検討する必要があります。どんなに特徴的な会社であっても、会社の知的資産が1つしかないということはありません。特に、知的資産はそれぞれが作用しあって相乗効果を出す特性がありますので、色々な角度から抽出し、検討する必要があります。
知的資産については、第2回「知的資産経営の基礎知識」でお話したとおり、人的資産、組織(構造)資産、関係資産の3つに分類されることが一般的です。(1)で紹介した掘り下げ方のポイントとして、人に関する強み、組織に関する強み、社外との関係に関する強みといった3つの視点から抽出すると、さまざまな“見えざる資産”を抽出することが可能になります。
このように、知的資産を知るためには、強みをより「深く」、「広く」捉え、それぞれの関連性を把握することが大切です。

図表2:知的資産の掘り下げ方

【図表2:知的資産の掘り下げ方】

3.経営環境を把握する

また、経営に活かしていくためには、強みの分析だけに留まらず、さまざまな経営環境を把握していくことが重要です。ここでは経営環境を把握するためによく使うSWOT分析を用いた方法をご紹介しましょう。

SWOT分析は会社の内部環境(経営資源)を強み(Strengths)と弱み(Weaknesses)に、外部環境(経営を取り巻く環境)を機会(Opportunities:チャンス)と脅威(Threats:ピンチ)に分けて分析する手法で、各々の頭文字をとって“SWOT”と言います。
(詳細は、当ビジネスナレッジの「 実践マーケティング講座第2回:環境分析」をご参照ください)
まず外部環境分析では、「機会」をその機運に乗れば会社を成長させる要因、「脅威」をそのままでは会社を後退させてしまう危険性のある要因として抽出・整理します。

まず外部環境分析では、「機会」をその機運に乗れば会社を成長させる要因、「脅威」をそのままでは会社を後退させてしまう危険性のある要因として抽出・整理します。
留意すべきは、市場拡大につながる要因が全て自社にとって「機会」となるとは限らないということです。例えば消費者の健康志向が強まる中で、健康関連食品の市場は拡大基調にありますが、新規参入が相次ぎ競争は激化するといった向かい風もあります。一方、流通業界の構造変化により縮小基調にある卸売業界にあっても、廃業した他社の顧客を引き継ぐことで1人勝ちしている企業もあるでしょう。
外部環境分析で大切なことは、一面だけを捉えるだけでなく、まずはさまざまな視点から要素を抽出し、状況ごとに「機会」と「脅威」を判断することでしょう。そのためには、外部環境をマクロ環境(法律や経済、業界の流れなど)とミクロ環境(自社を取り巻く環境など)とに分けて整理することをお勧めします。
次に、内部環境分析です。強みと同様に弱みを把握することで、今後取り組むべき経営課題が明確になります。因みに、人間などでも言えることですが、一般的に強みと弱みは裏腹の関係にあることが多いです。「弱み」を抽出することで、「強み」を再確認することも少なくありません。

図表3:SWOT分析のフレーム

【図表3:SWOT分析のフレーム】

4.自社の“強み”をみんなで考える

強い会社を作っていくためには、自社の知的資産を経営者や経営幹部だけでなく、全社員が把握、認識する必要があります。そういった意味では、知的資産の抽出にはできるだけ多くの関係者を参加させることが効果的です。

図表4:プロジェクトのイメージ

【図表4:プロジェクトのイメージ】

SWOT分析を行うに当たっては、近年、さまざまなソフトなども開発されていますが、ある程度の人数で行うのであれば、付箋紙とホワイトボード、模造紙だけでも十分実施することができます。図表4のように、まず参加者に4色の付箋紙(強み、弱み、機会、脅威ごとに色分けをする)を配布し、各人でそれぞれの要 素を書き込みます。次に各職場の代表者が持ち寄り、グルーピングを行ったうえで、特に多かった強みは他のどのような強みにつながって生み出されているかを検討します(図表5参照)。

図表5:強みの抽出と連鎖

【図表5:強みの抽出と連鎖】

非常にアナログ的なやり方ですが、多数が抽出した知的資産は誰もが考える強みとして有効活用すべきでしょうし、少数意見は新たな強みとして伸ばしていくことができるかも知れません。何より見える化によりベクトルを合わせる効果があります。

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