ビジネス講座

検証:一方的な支配関係より、相互依存が大きいほど買収が起こりやすい?

企業が成長していく手段のひとつとして、買収があります。買収は、自らの企業規模を大きくしてビジネスの幅を広げると同時に、その企業の資源(リソース)を自社に取り込むことで外部リソースへの依存度を吸収・コントロールする戦術でもあります。たとえば、ガス小売業を買収し一般消費者を開拓し拡大したガスの卸売企業や、事業の幅を広げるために、従来取引先であった不動産仲介や薬品卸企業を吸収合併し、売上を伸長した建設会社などの事例があります。


三大組織理論の一つである「資源依存理論」における近年の研究(*1)では、この買収に至るまでのメカニズム解明のために産業間での取引依存と買収発生の検証を行い、次のような結果を得ています。

検証結果


  1. 2つの組織間の相互依存が大きいほど買収の可能性は高くなる。
    しかし、力の不均衡が大きいほど買収の可能性は低くなる。


  2. 一般的に、買収は一方的な支配によって発生するものというイメージがありますが、実は「一方的な依存では買収は発生しにくい」という意外な結論が出ています。この結果は米国の企業データで検証されたものですが、日本でも同じことが発生しているかを、帝国データバンクの企業データを用いて検証しました。



    取引関係と買収の検証

    産業の依存度の定義として、たとえば、下図のような関係で、産業Aから産業Cへの依存度は、産業Aの販売額(横方向)の合計に対する産業A・Cの取引額の割合\(x_{13}\)と産業Cの仕入額(縦方向)の合計に対する産業A・Cの取引額の割合の合計で表現できます。


    需要・供給



    産業Aから産業Cに対する依存度: \[C_{ac}= \left(\frac{x_{13}}{x_{13}+x_{23}+x_{33}}+\frac{x_{13}}{x_{11}+x_{12}+x_{13}}\right) \]


    これと同様に、産業Cから産業Aに対する依存度(\(C_{ca}\))を求めます。

    産業A・Cの依存度合計:\(MD\) =\(C_{ac}\)+\(C_{ca}\)

    産業A・Cの依存度差分:\(PI\) =\(|C_{ac}\)+\(C_{ca}|\)



    依存度


    \(MD\)が大きいと買収は多く発生し、\(PI\)が大きいと買収は少なくなるというのが先行研究の結果でしたが、本検証では取引本数が1,000本以上となる業種(311リンク)において、買収と依存度の関係を回帰分析によって用いて調査しました。


    [モデルの設定]
    ・目的変数:2013年から2015年までの合併割合(合併数/取引本数)
    ・説明変数:2013年時点の依存度合計と差分の絶対値



    [推定結果]

    推定結果



    \(MD\)の回帰係数が正となった一方で、PIの回帰係数が負となることから、依存関係が強い産業は合併が発生しやすくなり、依存が片思いの状況では合併の発生は減少するということが分かりました。これは、米国における先行研究と同様の結果で、日本の企業においても同じ傾向にあることが検証されました。


    今回の定量的な分析により、取引関係で一方的に強く支配している強者が、強く依存している弱者を飲み込むという形ではなく、お互いに依存している企業同士が買収・合併を行って成長を遂げていく、という買収と取引依存度の関係が明らかになりました。今後、この知見を活用して企業間取引の関係データの分析を進めることで、どの産業間での買収が加速していくかを推計することも可能となっていきます。

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    先行研究では、産業間の取引関係を産業連関表(*2)によって表現していました。TDBでは、企業間での取引関係から独自の産業連関表(以下、IO表)を構築する研究(*3)を行っており、今回はそこで得たIO表を用いています。
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    *1 :Casaiaro,Piskorski (2005) Power imbalance, mutual dependence, and constraint absorption: A closer look at resource dependence theory
    *2 :総務省HP 「産業連関表とは」
    https://www.soumu.go.jp/toukei_toukatsu/data/io/t_gaiyou.htm
    *3 :Takaya Ohsato, et al. (2016) Input-Output Table constructed with private business establishment on company information data, Proceedings of Artificial Intelligence of and for Business 2016


    東京工業大学 情報理工学院 出口弘研究室
    データソリューション企画部 先端データ分析サービス課 大里 隆也

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