ビジネス講座

第3回:調査(R)ステップにおける「マクロ環境分析」〜その1〜

はじめに

第3回以降は、企業の置かれた立場や達成したい目標の下で取り組んだマーケティングを、第2回に紹介したマーケティングプロセスに沿って紹介していきます。

※本講座で登場する会社、人物はすべてフィクションです。


企業のプロフィール


  • 商号:株式会社タナカメタル工業
  • 従業員数:100名
  • 売上高:50億円
  • 業種:金属加工業
  • 会社の成り立ちと現況:
    主力となる自動車向けの部品供給のほか、独自の金属切削技術を生かして、精密機器や医療系機器の部品供給も行っている中小企業。初代社長が1980年に起業し、2000年に現在の2代目社長に事業承継をしてからは、大手自動車メーカーとの取引を拡大させることに成功し、売上高の多くを占めるようになった。
    一方、国内人口の減少による市場の縮小、自動車部品の現地生産による安価な部品の台頭などの外部脅威を認識しており、2代目社長として具体的な対策を打とうとしている。
  •       

悩みは、「取引先への依存」

同社の悩みは、自動車メーカーへの取引依存が強く、自動車の売れ行きが業績に直接影響しやすいことでした。事業のバランスを考え、精密機器や医療系機器の部品供給事業に参入したことはありましたが、基盤事業として成長していないのが現状です。
2代目社長は、会社として新たな収益基盤を確立するために、医療機器事業に力を入れていく方向を決め、まず医療機器業界の現状を把握するべく、社内にプロジェクトチームを立ち上げました。
ここからは、プロジェクトチームのマーケティングの取り組みについて、解説を含めながら進めていきます。

マクロ環境分析は4つの観点から行います

医療機器業界の現状を把握するために、マーケティングプロセスに沿って「マクロ環境分析」から行うことにしました。


目的は、主に3つです。


1.マクロ環境が自社に与える影響を明らかにし、
2.自社の強み弱みを知り、
3.参入する市場への適応性を判断することです。


キーワードは、「影響」、「強み・弱み」、「適応性」です。


影響を明らかにするためには、政治・経済・社会・技術の4つの観点で情報を整理することが一般的です。(表1)


1.法規制や政府方針などの政治的な観点
2.GDP推移や製品生産額推移などの経済的な観点
3.人口や文化などの社会的な観点
4.新技術や特許などの技術的な観点


例えば、医療機器を製造するためには、医薬品医療機器等法への対応が必要です。法律で市場参入が制限される一方で、既に自社が医療機器の製造業許可を持っていれば、企業の強みとして捉えられ、市場への適応性が高いと判断できます。

つまり、企業の強み・弱み、市場への適応性を捉えるためには、最初にマクロ環境を把握することが必要なのです。

表1 マクロ環境分析

マーケティングプロセスの各工程と内容

経営者は「マクロ環境分析」という言葉を意識していなくても、日々行っている情報収集の中でマクロ環境の分析を繰り返し行っているものですが、長年の実務経験で得た情報を体系的にまとめていく必要があります。今回のようによく分かっていない市場に参入する場合であれば尚更必要です。

マクロ環境分析<医療機器市場の事例>

それでは4つの観点から具体的に考えていきます。

〜政治の観点〜

政治の観点では、法制度を把握すれば良いでしょう。
医薬品医療機器等法は医療機器業界に属する企業にとって、切り離せない法律です。医療機器を製造販売するためには国の許可が必要ですから、「会社としての製造販売の許可を持っているか」、「持ってない場合に許可を取り、維持できる体制を整えることができるか」などが考えられます。また、医療技術の発展に伴って安全規制なども強化されるかもしれません。

法律が定まる場合には、きっかけとなる出来事があるはずですから、そういった動きも捉えると良いでしょう。
帝国データバンクの場合は、情報を取り扱う会社ですので、個人情報保護法の改正や番号法で定められている法人番号の制度などが当てはまります。これらの法改正の動向は、経営の方向性を決める指針になり、結果的に商品・サービスのマーケティングにも影響が及びます。企業側で制御できるものではないため、法制度の動向には、目を配る必要があります。

〜経済の観点〜

経済の観点では、為替や物価、消費動向などが挙げられるでしょう。
製造業であれば、為替や物価変動による原材料価格の変動リスクは常に存在します。消費動向と医療品の消費の相関についても把握しておくべきです。また、産業として成長過程なのか衰退期なのかを調べることも必要で、数値で計測することが可能です。

医療機器市場については、市場全体の生産額や歯科用品の個別商材の生産額についても政府統計から調べることができます。表2・3は、厚生労働省が発表している薬事工業生産動態統計を抜粋したグラフです。歯科材料は近年微増、歯科用機器は横ばいで推移していることが分かります。


  

     表2 生産金額の推移            表3 生産金額の増減率の推移(前年度比)

   
マーケティング・ミックスのフレームワーク     マーケティング・ミックスのフレームワーク


厚生労働省 薬事工業生産動態統計 医療機器大分類別生産金額(2010年度〜2014年度)

帝国データバンクの企業情報からも医療業界の現況を把握することが可能です。 表4・5は、帝国データバンクが保有する企業概要ファイルCOSMOS2を用いて、医療用機器製造・卸売業(注1)の売上高、社数を集計したグラフです。


 表4 売上高合計推移(医療用機器製造・卸売業)      表5 社数推移(医療用機器製造・卸売業)

   
マーケティング・ミックスのフレームワーク     マーケティング・ミックスのフレームワーク

注1 :医療用機器製造・卸売業・・・「医療用機械器具製造業」、「歯科用機械器具製造業」、「歯科材料製造業」、「医療用品卸売業」、「医療用機械器具卸売業」に属する企業

※許可なく転用を禁じます。


グラフを読み取ると、2000年以降で売上高は年々増加していますが、社数は横ばいなので、1社あたりの売上高が増加していることが分かります。業界としては成長基調が続いていると読み取ることができます。

一方で、会社の顔ぶれは2000年から400社以上(全体の10%)入れ替わっているという裏があります。ここから「業界としては成長を続けているが、新興企業の台頭や異業種の参入が多い業界である」といった仮説が立てられます。 「10%が入れ替わっている」という事実は、これから医療用機器業界に参入するタナカメタル工業にとって、プラスにもマイナスにも捉えることができます。どちらであっても理由や原因を明らかにする必要がありそうです。マクロ環境分析の段階では、まず事実を列挙し、抑えておくことが重要です。

情報の価値を考える

マーケティングに限らず企業が意思決定する場合には、判断材料としての情報が必要です。社会的な観点、技術的な観点を考える前に、一度、情報の価値について考えてみましょう。情報は、「一次情報」と「二次情報」の2種類に分類することができます。

一次情報」は、ひとことで言うと「自ら収集した情報」です。企業が目的を持って集めており、世の中に出回っていない情報なので、価値は非常に高いです。自社調査や調査会社に依頼するなど、自らの目的に沿って収集した情報などが一次情報に当たります。
一方、「二次情報」とは、ひとことで言うと「誰かが集めた情報」です。二次情報は公開されているケースが多く、他社も入手することができるため価値はそれほど高くありません。政府統計が二次情報の良い例でしょう。

マクロ環境分析のように、市場を調べるためには外部の情報に頼った方が効率がよいこともあります。情報の価値について理解を深めることができれば、必要な情報を集める際に参考になるかと思います。

次回は「一次情報」と「二次情報」をもう少し詳細に説明した後、マクロ環境分析の4つの観点の「社会」、「技術」の観点をお話しする予定です。

次回は、情報の種類と活用方法について、掲載する予定です。

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